第9話 旅立ちの前の準備
「あ~やっと準備できた~」
高校で一人暮らしを始める前、部屋が足の踏み場もなくならないよう荷物の整理整頓を覚えるのにずいぶん苦労した。そのスキルが、まさに今役に立っている。
梱包し終わったスーツケースを見て、満足げな表情を浮かべる。雲縁たちが化粧ポーチの準備をしてるのを思うと、自分の作業量なんてずっと少なくて済む。しかも今回の目的地は沖縄、平均気温がずっとこっちより高い。半袖を数枚持っていけば事足りるし、何より学校から制服の着用が指定されてるんだから!
正直言って、沖縄は俺にとって新しく開拓した領土みたいなものだ。中学の修学旅行は北海道に行った気がする?よく覚えていない。当時はもう人付き合いを避けて一人で行動するようになってたから、楽しい思い出を残す写真なんてものは当然残っていない。あの頃の俺、札幌駅で一日中電車を撮り続けてたんじゃないか?…… まあ、集合写真には一枚や二枚写ってるかもしれないけど。
なんでこんなことを思い出してるんだよ!こんなの何の貴重な過去だって言うんだ?
自分にツッコミたくなったその時、スマホがブルッと振動した。たぶん LINE の新着メッセージだろう。
「明日の朝、一緒に行動する?」
考えるまでもなく、俺たちの 5 人グループトークからだ。最後に川崎くんも修学旅行のために入ってきたし、他に用もなく俺にメッセージを送ってくる人なんていない。まあ、雲縁と崇くらいは別かもしれないけど。
提案したのは雲縁だ。筋が通ってて段取りがいい彼女は、俺たちのグループの文句なしのリーダーだ。
「リーダー、先に俺のことは諦めてくれ。ギリギリに到着するから~」
「鏡ちゃん、早くこの彼氏をしつけてやって!」
「(呆れ)」
崇、この怠け者!これは修学旅行だぞ?彼女と遠くで一緒に過ごせる絶好のチャンスなのに!俺たちが着地する頃にお前が羽田空港に到着するなんて事態になったら、後悔してももう遅いぞ!
「あ~父さんが朝早く起きて空港まで送ってくれるって約束してるから、ごめんね~」
川崎くんが謝罪スタンプと一緒にメッセージを送ってきた。親に送ってもらえるなんて本当に羨ましい。羽田空港発、朝 8 時半のフライトだと…… 最遅でも朝 6 時に家を出なきゃいけないじゃん!
なんで学校は昼発のフライトを予約してくれないんだよ!
スマホのアラームを何度も確認する。今回は絶対にミスできない!
「おやすみ、みんな!」
「だから藤立くんは人と違うって。普通の高校生が夜 9 時半に寝るわけないじゃん?おじいちゃんの生活リズムなの?」
鶴岡藤立、18 歳。まさに花の盛りの年頃なのに、おじいちゃんだなんて言われて、絶望と将来への迷いを感じてしまった。
絶対に明日お前は眠くなるぞ。電車の中で寝過ごすぞ。案内板を見間違えて和歌山まで飛ばされるぞ!
…… って、ここ東京だぞ!まあいいや、寝よう。
ベッドに横になり、強制的に脳をシャットダウンしようとする。なのに、なぜかこんなにワクワクして興奮が収まらない。中学の修学旅行の時とは、全然違う。
「早く寝ろよ、バカ!」
人の顔色をうまく読み取れる私が、偏にあなたの心だけは読み解けない。 @NorstarTony
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