第4話 返事

 なんとか死なないで済んでよかった。

 病室で煙草吸いたいなーと漠然と考えていると、ガラッと扉が開く。

 見てみると、あの時の少年。

 名前を園木そのき明真はるまと言うらしい。

 へー、かっこいい名前だねって言ったらはにかむね。

 ふぅん、ふぅん。そう。ふぅん。


 んで、園木明真くんは俺が入院したってどっかから聞いて両親同伴でここまで駆けつけてきたらしい。律儀なコだね。珍しい。

 最近の水都って荒んでるから「心配だな〜」って思うことはあっても、直前両親をつれて病室まで来ることってあんまりないんだよね。

 そういう人がいないって話。家族でもないのに。


「うちの息子が世話になったらしく」

「人間、困った時は助け合いでしょ。大丈夫! ご心配なさらずにさ」

「しかし……大怪我をなさったと」

「怪我なんてのは心の傷よりもっとマシですよ」


 園木一家はずっと俺に申し訳が立たないっぽい。

 もういいって言ってるのにね。


「園木明真くん」

「は、はい!」

「怪我がないなら、それでじゅーぶん。もう来てならないよ」

「でも」

「聞こえる返事はイエスだけだよ。生憎と日本語が分からないのでね」

「……イエス」

「それでよし」


 退院して帰宅。洗面所の鏡で身体を見てみると凸凹。

 三発分の傷跡。そういえば退院する時に医者と看護師に「良く生きてたな」と言われた。俺もそう思う。

 俺ってやっぱりハンサムだからな。死なないんだろうな。

 ほら、前に言ったこと覚えてる? ハンサムは死なない。


「リハビリとかなかったな……」


 あんなにボロボロになったんだからもっとリハビリとかさせるべきじゃない? 水都だから? いや、東京の病院でもリハビリなかったな。

 東京でもだよ。俺、片腕になったのに。

「君ならまぁリハビリとかしなくて大丈夫だろ」って言われて解放された。大丈夫じゃないからドタバタ転げ回ってんのに。

 それとも俺が知らないだけでリハビリテーションは専門外?

 だとしたらごめんなさいなんだけど。

 でも医者が「リハビリしなくて大丈夫」は言っちゃ駄目だよ。


 車とか運転できなくて困る。

 めちゃくちゃ高性能の義手とか生まれて欲しい。

 あとなんか、もう一回腕とか生えてきてほしい。


 それにしても、最近は波乱だな。

 腕をなくして大学を辞めてヤクザれんじゅうと戦って入退院……これを三ヶ月でこなしてる。もう十二月だからそろそろ落ち着かないと。

 冬場は力を温存しないと雪に命を持って行かれかねない。

 というか、まずは仕事探しだよな。

 大学はなんかもういいや。なんかもういや。

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