恋トゲン 2

せおぽん

恋トゲン 2

「ひどいな。胸にぽっかり穴があいている」


この診療所のレントゲンには恋の影が映る。

レントゲン写真に映る白い影の中心に黒い部分を見て言った。


「私、幸せなんです。でも…」


彼女は、現在交際中の彼氏からプロポーズを受けたそうだ。だが、返事を保留しているという。


UFLS(忘れられない恋症候群)かもしれない。結婚前の女性に時折みられる恋の病だ。


「以前、お付き合いされた方に未練が?」


「違います。そんなんじゃないんです。中学生の頃の初恋を思い出したんです。片思いだったんです。でも、その人の名前を思い出せないんです。そう思ったら、私……本当に恋ができてるのかな?って…」


「卒業アルバムがあるでしょう? 同じ学校の子では無い?」


「アルバムは何度も見ました。でも、そんな人いないんですっ」


「依然、LSに罹患したことは?」


「あります。高校生の時にILS(Idol-loving syndrome アイドルに憧れる恋症候群)」に。その頃、ジャニーズにはまってて」


「ははは。なら、心配要らない。あなたの穴はI.L.Sによるものですよ。推しのアイドルが引退でもしたんでしょう。そのショックからです。引退したアイドルはメディアに出ませんからね。名前を忘れてしまうのも仕方ない。安心してプロポーズを受けると良い」


「ありがとうございます。先生」


「とりあえず、当時の『アイドル名鑑』を処方しましょう。名前がわかればスッキリするでしょうから。お大事に。素敵な恋を」

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