第8話
何が何だか分からずしばらく歩くと
見慣れたコンビニに着いた。
手首を引いたまま
彼は2本水を手に取り、お会計をして店を出た。
コンビニ前の、いつもの喫煙スペースにあるバーに
寄りかかるように腰掛けさせられて
蓋を開けた水を渡された。
「イチカちゃん、これ飲んで。」
言われるまま、水を一口飲んだ。
冷たさが身体の中に流れるのを感じて
思った以上に喉が渇いていた事に気づき
もう一口、またもう一口と
水を喉に流し込むと不思議と気持ちが
落ち着いてきた気がする。
その様子を見て、彼も水を飲んだ。
「ありがとう。」
「ううん、いいよ。」
そう言うと、ふわりと笑う。
暗い背景に、店の明かりを受けたその白い姿は
やけにボンヤリしていて
起きた事も含めてあまり現実味が感じられなかった。
「優くんは、なんであそこにいたの?」
その言葉が口から出た後
綺麗な女の人が隣に居た事を思い出し
サッと血の気が引く。
「ごめん!彼女と一緒だったよね?」
「そういうのじゃ無いから大丈夫だよ。
イチカちゃんは気にしないで。」
優くんがクスクス笑う。
本当になんでも無さそうに笑うから
不思議に思い首を傾げた。
「イチカちゃんこそ、なんであの人と
あんなところに居たの?
知り合いでは無さそうだったね。」
聞かれる声も、表情も変わらず柔らかいけど
向けられる琥珀色は、先程の男性に向けられたものと
同じくらい圧を感じる。
だけど、金色に光って見えるそれが綺麗で
畏怖から、背中がゾクリとした。
「茉莉花の家から帰る時、いつもの道が使えなくて。
仕方がなく繁華街を通ったら、あの男の人に声かけられたの。
逃げられなくなってたところに、優くんに会った。」
助けてくれてありがとう、と
頭を下げると
そっか、と声が聞こえた。
顔を上げて表情をみたら
圧は無くなったけど、すごく困った顔をしてた。
「制服着た女の子なんて
男からすれば絶好の餌になるから。
暗くなったらあそこは通っちゃダメだよ。」
「わかった。」
送ると言う優くんに、流石に申し訳ないので断ったら
タクシーを呼ばれた。
「スマホ出して。
…はい、俺の連絡先。家着いたら教えてね。」
私をタクシーへ押し込むように乗せて
運転手に1万円渡し、外からそのまま扉を閉めた。
自宅前まで約30分の距離は
迎車料金含めてもそんなに掛かるわけなく。
こんな事なら素直に送って貰えば良かったと
少し後悔した。
優くんに家に着いた事と
再度今日の感謝をメッセージで送り
その日はシャワーだけ浴びて
さっさと寝た。
不思議と恐怖心は無く
眠る前思い出したのは、ふわりと笑った笑顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます