第3話
「ただいま」
返ってくる声は無いが
癖でそう発する。
人の気配を感じない事に寂しさを感じ
自分の部屋の机へ向かった。
父は単身赴任で県外に出ており、母は4年前心臓を患い亡くなった。
母は小さい頃から心臓があまり強く無かったらしく
私を産んだのも奇跡に近かったらしい。
この家で3人で暮らしていた時は
そんな事微塵も感じないくらい明るい母が大好きだった。
去年の春、本当は父の転勤に合わせて
私もここを離れる筈だったが
どうしても、母といたこの家を離れたくなくて
我が儘を言ってここに残った。
父もこの家を離れ難く想っていた為
了承してくれた。
ただ、流石に高校生1人が住むという事は難しい為
今は時々、近くに住む父方の叔父と叔母が
様子を見に来たり、家の事を手伝ってくれている。
私はすごく恵まれている。
それに報いたくて、今の学校は特待生として入学した。
ただ、元々勉強が好きとか、得意という事はない。
父も叔父・叔母、祖父・祖母も
学費なんて気にしなくていいと言ってくれているが
これはもはや、自己満足だった。
それに、必死に何かを考えている間は
寂しさは忘れられる。
デスクで、秋以降にやるであろう範囲を解いていると
スマホが震えて着信を知らせていた。
「はぁい、もしもしー?」
『壱華、まだ起きてたか?夜遅くにごめんね。』
「起きてたよ、珍しいね。どうしたのパパ?」
着信は父からだった。
『今年のお盆休み、短いが取れそうだから
先に伝えておこうと思って。
一緒にママのところに行こう。』
「お、やった!ママ喜ぶね!!」
そうだな、と嬉しそうな父の声に
もっと嬉しくなった。
それからは簡単にお盆の予定とか
最近の事を話してすぐに電話を切った。
お腹空いてきたなぁ。
でもこの時間に食べるのはあまりに罪深い気がして
暗い家の中を歩き
さっさとお風呂に入って寝た。
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