第2話 おかしくなんてない。

 ぱっと見は魔族ではない。だが、どうにも僕らと同じ種族に見えない。ひとまず敵対の意思はないようだ。むしろ、困惑や不安のが見てとれる。170cmほどの男女。なんともいえない。


「協会を探索してたらよ、地下の隠し部屋からこいつらが見つかったんだ。ひとまず茶ぁ飲んで落ち着いてもらってる。まだ何も聞いてない。」補足するO3。

 

 男のほうが口を開く。

「...えっと、いろいろとありがとうございます...? 」

 ひとまずは危険ではないと判断したらしい。まだ安全だと決まったわけではないが。

「すみません、ここはどこでしょうか。」

 女が全体に向けて問う。


 O3の部下らしき人が反応する。

「悪いが、こちらとしては君らの素性がわからない。先に所属と名前、出身を名乗ってもらおうか。」

 歓迎ムードではないことを二人に突きつける。すると、男のほうが挙手する。


「こちらから名乗るべきでした、申し訳ないです。僕の名前はあわしま。こっちは...」

「ひるこ。」二人が名乗る。「所属、というと。二人とも○○高校、名古屋出身です。」少しばつの悪そうに男が続けた。

 

 初めて聞く地名に、所属。周りの顔を見渡すかぎり、誰もピンときていないようだ。警戒心を強める。一度拘束を...なんて頭によぎるが早いか、カブリトが声を上げる。

「この子達すっかり委縮しちゃってるよ?みんなもっと優しくしてあげようよ!!」

 僕には堂々としているように見えたが、細かいことだ。

「私は信じる。私はカブリト、よろしくね!」二人の手を無理やりつかんで握手をする。それだけにとどまらず、雑談まで始めてしまう

 

 苦い顔のO3。さっきの部下が耳打ちしてくきた。

「あれどうするんですか、貴重な情報源です。君の彼女さん、さっさとどかしてくださいよ。」彼女ではない。

「そうすべきだというのはわかるんですが、ちょっと嫌です。なんとか受け入れてください。」

 せっかくの新しいおもちゃをすぐに取り上げるのは酷だ。こちらのわがままに付き合ってもらおう。

「ほら、O3が集合かけてますよ?」と教えてあげたところ、部下くんは不満げな顔をして去っていった。


 現地調査メモを覗いた。〔話の末に記す。見なくてもストーリーには影響ないよ :) 〕

 信仰の根絶が有力か。それに強い個体の存在に、多種族の共同活動。あまり見られない動きだ。魔族殲滅に向けて、なにか手がかりが得られるかもしれない。詳しく調べるとしよう。


 またO3とカブリトが口論しているのが遠め目に見える。例の二人組の処遇だろうか。僕としてはどこかの研究機関に投げとけばいいと思うのだが、そうはならなそうだ。

「この子たちはうちらが飼います!」そう主張するカブリトの大きな声。今更僕らの孤児院に子二人増えた程度構わないのも事実、ちゃんとお世話はできる。一切譲る気はなさそうだ。


 彼女の手が徐々に激しい光を帯びていく――炎が立ち上がり、人をも超える大きさになる。

 焦った顔のO3、接近して身体を拘束しようとする。――許容できない。O3の足に目掛けて具体化魔力の矢を放つ。炎にはただの魔力の波を。

 二人の攻撃態勢が停止する。近付いて忠告する。「おっさんが崇高な躰に触れんな」


「や゛り゛すぎだろ、お前」敗者の叫びが聞こえる。足の甲から血がドバドバ出ちゃって、自業自得。「てか先に魔法使ったのこのガキだし!」愚かにも、喚く喚く。

「なんでもいいけど、とりあえずこの二人はもらいますよ?」

 まともに会話できなさそうだし、貰ってもいいということだろう。


 件のカブリトは、O3の治療を始めていた。真っ先に攻撃を始めていた人の振る舞いとして、面白いものだ。本気で心配している表情なのが一層愛おしい。


 夜になった。

 調査隊と僕らそれぞれで火を囲む。川で適当にとった魚と、用意していた具材でスープを作る。

「結局君らは何者?」

 あわしまとひるこを名乗る二人に問う。

「先ほどカブリトさんと話したところ、僕とひるこは異なる世界から来たようなんです。もっと科学文明が発達してて、魔力が存在しない世界。気づいたらあの建物の地下にいました。僕らにも急な出来事で、何が何だか。」

 驚いた。が、「君らは魔力を宿しているようだが。」やはり信じられない。しかも人並み外れた魔力量に濃度。

「元の世界について話せば信じていただけるでしょうか?」と聞かれる。僕は首を横に振る。

 所作でわかる、彼らの力は到底僕に及ばない。いまは好きにさせていいだろう。

「貴様らが、カブリトに害をなすことはないな?」確認をとる。


「誓って。あなた方に害を及ぼすことはありません。」

 真剣な眼差しで、目を見つめてくる。


「わかった。それさえ保証してくればいい。」

 嬉しそうに目を輝かせるカブリト。視線を送り、頷く。

「私たちの孤児院においで。そこで一緒に暮らそう!」



 翌朝、街に戻らずにそのまま孤児院へと向かった。

 街から少し離れた雑木林に建つ、存在感のある邸宅。ただ、外壁に植物やシミが見て取れ、来客に古びた印象を与える。庭にはレタスやじゃがいもなどが植えられている。老夫婦が管理する、塀と結界に覆われたその施設に、魔族が侵入することは敵わない。


 正面の大扉を開けると、子供がわらわらと集まってきた。大小さまざま、哺乳瓶から思春期まで。数十人の子供とじいちゃんが迎えてくれた。木の匂いが漂う、質素で安心する空間。

「みんなただいま~!!」と、隣でたかいたかいをするカブリト。街で買ったおやつをみんなに配っている。僕の足元にはめっちゃ叩いてくる男子が群らがる。帰宅が翌日以降になることは事前に伝えてあったが、それでも心配しちゃうのが子供というものだろう。


 「あのー、じいちゃん。一つお願いがあって。」

 玄関から動かぬまま、あわしまとひるこについて、話を切り出そうした時。

「ガキ2人増えたって変わんねーぞ?」じいちゃんが自信満々の表情で先手を打つ。なぜ言うことが見透かされているのか。この人にはかなわない。

「仕事できるように色々教えとけ。今日明日は好きにしな。」

 じいちゃんには感謝しかない。

「ありがとう。また迷惑をかけるよ。」



 四人で空き部屋に場所を移す。

「さてさてさて、今日はこの世界についていろいろ知ってもらう日にします!」

 カブリトが一人手をピンと張って宣言する。拍手喝采、沈黙。


「ということでっ、はいこれ羽織って。」と頭から全身を隠すローブを着せる。「君たちは見た目が人よりちょーっと個性的だからね。まあ私は気にしないけど!」まくし立てた。念のために、とせっせこと二人の顔にメイクを施す。


「この世界ではこのメイクが一般的なのですか?」と男のほうが聞いてきた。

「生まれつきだ、僕らとしては君らの見た目のほうが異常。」そう答えたが、釈然としない様子だ。緊張、はたまた困惑か。僕の語彙ではしっくりくる説明できない、微妙な態度を見せる。


「あとは歩きながら話そうか。」

 四人で街へ向かう。まだ日は高い。

 鬱蒼とした林をさっさと抜ける。木々を抜けてしまえば、あとはただ開けた平原のみ。その中心に統治区はある。荒れたアスファルトの道を歩く。まばらに人の往来がみられる。


 男のほうとカブリトがだいぶん話し込んだようだ。文句を言ってやりたい気持ちを抑え、足早に進む。魔法に興味があるとか。さっき殺した一つ目の四足獣も見慣れないのか、幾度と聞いていた。この世界に馴染もうとしているらしい、結構なことだ。


 何も障害なく街の中へ入る。彼らの要望で雑貨店に向かう。

 いつもの大通りから一本外れた路地に目的の店はある。快晴からか、いつもより道中が騒々しい。人が多いのだろう。


 そこに商店が在る。この世界に似つかわしくないほどに豪華で、輝きを放っている。良いうわさを聞き付けたのか、見慣れない格好をした人、いや強盗がいる。いま襲っているようだ。あぁ、もう殺されたか。骨のない奴だ。治維隊の下っ端に瞬殺されてるようでは、この街で荒事する権利がない。

 「あちゃ~、殺されちゃったかぁ。見てて気分良いものじゃないのに。ねぇ、あわしま君もひるこちゃんもそう思うでしょ?」と問いかけるカブリト。優しい目で強盗を見つめている。


対照的に、問われた二人が悲惨な表情をしているのが目に映る。過呼吸、嘔吐、混乱。今更何をそんな、と言いかけたが、恐らく魔法での惨死体を初めて見たのだろうと察した。初めて惨死体を見た幼少期に、思いをふけてみる。


人が死ぬ様なんてもう見飽きた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 1.調査概要

 アテイズ村の調査。人口(100)人、民族固有の信仰(人間中心主義的な特徴)。

 〇年/△月/▢日、魔族の襲撃。3日後に行商人により発見。

 報告を受け、〇年/△月/▢日、治安維持隊(+2名の民間人)による実地調査。


 2.状況

 ・民家十九戸、教会一堂。いずれも倒壊。民家の多くに焦げ跡。

 ・防護結界の形跡あり。常設の外的対策は十分。

 ・人が食われた形跡なし。すべての死体が放置されており、その数は戸籍と一致。

 ・民家の物資、金目の物はほぼ手付かず。教会は対照的に、中に物がほぼない。


 3.魔族

 ・村の全方位に2~4足様々の足跡が発見。複数種族共同の行動の痕跡。それらを統括する高位個体の存在?

 ・上下二分断状態の遺体を発見。付近一帯にそれを可能とする魔族はいない。件の高位個体のを提言。

 ・人間と魔物双方の血痕。人間も抵抗をしていた様子がわかる。

 ・すべての民家に焦げ跡あり。なお持続の短さから、魔法による一時的燃焼だと思われる。また建物の破壊状況から、物理的な破壊活動も行われたと推定。


 4.考察

 ・複数種族の共同襲撃である点、また教会への行動から、高位・高知能個体による計画的襲撃がであると推察。

 ・ [仮説] 教会を重点的に破壊、物品を持ち去ったことから、当村の信仰が魔族との利害が衝突か。周辺集落への伝播、拡散を危惧したとみられる。

 ・ [補足] 金品に手を付けなかった点から、「略奪」が目的でないことが明らか。上の目的であるという説を補強。

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