4日目 全部自分のせい

『こう言うのは誰が悪いって訳じゃないから。あんまり気にしないでね。でもことがことだから報告書だけちょっと書いてもらうわね』

 お決まりの文句なのだろう。犯人探しをしたところで空気が悪くなるだけだし。見つけたところでお金は返ってこない。

 建設的な判断だと思う。時代にもあっている。でもそれが建前であって本音でないことは言葉の端々からも感じられた。

 当然だ。少なくないお金が失われたのだ。気にしないわけにはいかない。誰の責任であってもそれは変わらない。

 大体本屋さんがつぶれる原因のひとつが万引きだというニュースを見たことがある。本は仕入れるわけではなく取次と言うところから本を委託して販売している状態。つまり在庫を持つことをなく販売している。万引きされると仕入れていないものを買い取る必要があり、次々に廃業へとつながっている。

 春は入社する際にそんな話を研修で聞かされた。正直驚いたし。ただでさえ許せなかった万引きをさらに許せなくなった。

 でも。釣銭を間違えるなて。万引きするのよりもっとひどい。そう考えたらなにも手につかなかった。いっそのこと一晩寝ればスッキリするかと思ったが。そんなわけはなかった。だいたい寝れるわけがない。

「だって私だもん」

 思いは言葉となって口から零れ落ちる。

 としくんのことで気を取られていたのは自覚している。仕事に集中していなかったのも確かだ。それも千円札を受け取って。一万円とレジを打ったって気が付かないくらいに。

 朝、お店までの道のり。うつむきながら歩いている。景気がいい様子ではない。なんならすれ違うサラリーマンから二度見をされるかもと思えるほどに落ち込んでいる。わかりやすいなぁと。自分のことながら春は自分を俯瞰してみている。

 決してパフォーマンスとして落ち込んでいるわけではない。頭の中はやらかしたことへの反省でいっぱいだし、元気いっぱいにふるまうこともできそうにない。

 でもきっと気にしすぎたら心配される。周りは優しい。仕事だから。というのもあるが間違いなく優しい。だからお店に着くまでにこの雑念を振り払う必要がある。

 でもそんなことできそうにない。としくんに返事をしていないことも頭を占めている。

「あー。もうっ、知らない!」

 ぶちぎれた。

 立ち止まると。スマホを手にしてとしくんのページを開く。心変わりをしないうちに素早く指を動かして文字を打っていく。

『ごめん。今は仕事に集中したいんだ。落ち着いたらまた連絡する。本当にごめんね

 そう打った最後に。好きだよ。と打つか数秒悩んで。結局、続きを打つのはやめた送信ボタンを押す。

 仕事。今はそれに集中しないと全部が中途半端になってしまう。そんなのは嫌だ。目の前のことに集中。今はそれだけを考えよう。

 踏み出した一歩とともに前を向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る