キューピット部!

「今日もアイデアもってきましたー」

「先週のはどうした」

「いやー、なんか違うのが捗っちゃって」

呆れる顔しかできないのは関川部長。

一方で興味を隠せない顔なのは礒部。


「今回はラブコメですね~、今共有します」

用意していたテキストファイルをワンタップで全体チャットに投げる。瞬時に既読が2、いや3ついた。幽霊部員の誰かも既読をつけたのか。


「今回はタイトルだけ決まった感じか」

「そですね、昨今は長いタイトルのラノベが多い中で、ちょっと短くて全部伝わるやつがいいなーと思って、このアイデアが一昨日寝ていたらポン!と。ひらめきまして」

「なかなかなタイトルよ、『!』がついてるのはわざと?」

「なんかついてたほうがいいなーって。」


キューピット部!

これが本アイデアのタイトル。

前回とは異なり、今回はタイトルが先行している。


「なるほど、ツンデレヒロインが鈍感主人公を振り回していく話と。」

「そんな感じです。」

ツンデレのヒロインが急に作った部活「キューピット部」。

無理矢理加入させられた唯一の部員・主人公くんは、いつも幼馴染ちゃんに振り回されてばかり。ある日突然、「キューピットになりたい!」と言い出し、キューピットとして他人の恋を叶える部活を勝手に作り、勝手に主人公も入部させられる。2人しかいない部活、唯一の男性部員は、「これは男子にしかできないでしょ!」とふりまわされる日々、デートのセッティングとか根回しとか……



「ほんで、他人の恋を応援するために、部員2人が奔走するのか」

「友だちとかの恋模様も描きながら、自分たちの恋はぜんぜん、と…」

「ぜんぜんというか、主人公くんへ素直に『好き!』を伝えられないヒロインと、あまりにも鈍感な主人公くんという、その関係性ですよね」

「ありそうな内容だな」

「ありそうですね、自分でも思いました。でも絶対に面白いラブコメになる。」



「あらすじのあらすじだけ完璧にできてるじゃねーか、で、前回決まってたヒロインの名前は?今回は?」

「はて?」

「『はて?』じゃねーよ」

「だって、導入以外はノープラン」

「……………」

「……………」

「……………」


沈黙が続く。隣から聞こえるキーボードの操作音。


これを破るのは、当然ながら関川部長。

「じゃあ質問を変えよう、それは置いといて、どんな恋を応援するのかい?」


「まずはおばあちゃんのお助けから始めたいな~と。」

「キューピットじゃねーじゃねーか!」

思わず礒部からツッコミが入る。


「最初からキューピット部にキューピットお願いする人はいないじゃん。ちょっとしたところから、はじまっていくのさ」

「そのままだと、ただのお助け部になりそう。」

「そこはキューピット部。地道にやっていけば、ある日突然やってくるのさ。依頼が。」

「ふむ」

「2人のうち、どっちかが礒部のように『キューピット関係ない!』って言いそうだけど、どっちが言う?」


「じゃあ両方パターン考えてみましょうか」



「女の子の場合、『キューピット関係ない!』と言って、主人公くんに『いいや、そういうことじゃないでしょ、まずは目の前のことからやらなきゃ』とか?」


「主人公が『キューピット関係ないじゃん!』と突っ込むとすると、ヒロインちゃんは『こーゆーとこからはじめるの!』とか言って聞かない」

「『やるといったら、やるの!いいからついてきてよ!』とか」

「ありえそー!」

「とにかくぶん回す役割って考えると、幅が広がっていいね」

「部長にはアイデアありますか?」

「そうだな…」

さっきから黙りこくっている関川部長

「アイデア、出ない…」

「ズコ――!」

「部長、さんざん溜めてそれですか」

後輩からのツッコミが止まらない。

「インプットばかりで、アウトプットが苦手なんだよねー、あは、は…」

部長は限界のようだ。話を逸らす気まんまんである。


「あとやっぱり、ちょっと内気な同級生の女の子から急に依頼が来たり、キラッキラでみんなの人気者からも相談があったり、あとは普通に人助けしてばあちゃんたちからお駄賃もらってーみたいな未来を想定してますね。」

「しかし、まあ、最終的にどう帰着させるか?」

「そこなんよ、スタートしか考えてなかった」

「むむー…」

ネタがしぼんでしまう。撒いた種は枯れてしまうのか。

「クリスマスとか、忙しくなりそうじゃね?デートプランをあれこれ考えたり」

「そして疑似デートに連れてく、と」

「それだな」

おや、違うところからがどんどん話題が広がる。ベーシックな話題から広げるのが安全策だ。

「バレンタインとかは?」

「お菓子レシピ試しまくる。」

「ほう」

「ホワイトデーは、主人公の独壇場だな、クラスの男子たちから一気に来る」

「ありあり、めちゃめちゃアリだよそれ」


「好きな子にもらっちゃったー!とか」

「好きな子へのお返しどうしよー!とか」

「男子のお前しか頼めないんだよ!とか」

「お前は女子の対応慣れてるだろ!たのむよー!とか」


――彼らのグダグダ企画会議はつづく……





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ラノベサークル企画会議 きりのかなた @kiri_no_k

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