第21話 緊急事態!?
エステルはジュリーと一緒に魔界省の建物から出て、夜空を見上げた。
検査結果を聞いたり、バートと今後の事で打ち合わせを行ったりしていたら、すっかり空が真っ暗になっていた。
「それじゃあ、帰ろっかエステル」
「はい」
バートは家がなくお金もないため、今夜は魔界省に泊まるつもりらしい。
エステルはエーオブディーが管理する女性探索者専用のマンションで暮らしているため、バートを泊まらせてあげる事はできなかった。
「はぁ……」
エステルは思わずため息を吐いた。
「『女性専用マンションじゃなければ、バート様と一緒のベッドで寝られたのに〜』って顔してるよ、エステル」
「っ!?」
横から飛んでもない事を言われて、エステルは心臓を跳ね上げる。
燃えているみたいに顔が熱くなった。
「そんな事ないですっ! 一緒のベッドだなんて、そんな、えっちな……」
「おやおや? 私は単に寝るだけのつもりで言ったんだけど、エステルは何を想像しちゃったのかな?」
「〜〜〜〜っ!!」
エステルは恥ずかしくて頭が爆発するかと思った。
だけど、今のは流石にずるいだろう。
エステルは涙目で、ニヤニヤ笑っているジュリーを
「ごめんごめん。だけど、良かった」
ジュリーが見守るような微笑になった。
「もしかしたら、もう二度とこんなやり取りはできないかも知れなかったんだもんね」
「ジュリーさん……そうですね。バート様がいなかったら、帰って来られませんでした」
「良い出会いがあったね」
ジュリーの言葉に、エステルは胸が熱くなるのを感じながら頷いた。
☆—☆—☆
そんなこんなで、エステルが帰宅したのは午後八時頃だった。
それから約二時間後の夜十時。
食事や入浴を済ませたエステルは、『ダンジョンライブ』——ダンジョン探索者向け動画共有プラットフォームにて告知配信を開始した。
「皆さん、いつもお世話になっております。エーオブディーのキラキラ星、エステル・パルフェです!」
〈エステル〜〉
〈こんばんは〉
〈こんばんは〜〉
〈思ってたよりも次が早かったw〉
〈昼間あんな事があったのに、休まなくて大丈夫?〉
「ご心配おかけしてすみませんでした。私は大丈夫です。実は、どうしてもお知らせしたい事がありましてっ!」
〈結婚か(˙-˙) 〉
〈結婚だな(˙-˙) 〉
〈ついに勇者様と結婚するか(˙-˙) 〉
〈エステル・リモナードになるのか(˙-˙) 〉
〈例え
「結婚ではありません。そもそもまだ結婚できる年齢じゃないですし」
視聴者たちが即座にからかってきたが、エステルは一切取り乱さずに余裕の笑顔で受け流す。
昼間の配信を受けて、視聴者たちがどのような反応をしてくるかは予想していた。
ジュリーに協力してもらい、その対応もシミュレーション済みである。
今のエステルは、言わば戦闘訓練をしっかり受けた戦士なのだ。
「残念でした。もう皆さんの
〈な、何だと……!?〉
〈俺たちの攻撃が、通用しない!?〉
〈馬鹿な……レスバよわよわエステルはどこに……?〉
〈成長が早すぎるっ!〉
思わぬ展開に動揺する視聴者たち。
これは、誰がどう見てもエステルの勝ちであろう。
昼間の
「ふっふっふ、それではお知らせに入っても良いですか?」
〈ドヤ顔エステル可愛いw〉
〈今回は俺たちの負けだ〉
〈ああ、完敗だ〉
〈告知を頼む〉
「実はですね、
エステルは胸に押し込めていた喜びを爆発させた。
〈おおー!〉
〈よっしゃああぁ!〉
〈また勇者様に会えるのか!〉
〈やったなエステル〉
〈エステル良かったな〉
「はいっ、ありがとうございます!」
こういうときは一緒に喜んでくれるので、何だかんだ優しい視聴者たちである。
エステルは嬉しく思いつつ、詳細の説明に入る。
「配信開始は明日の朝九時、場所はカメリア第七ダンジョン『
〈待て待て、そこって『青の
〈あっ、シャネルの!〉
〈何それ?〉
〈『青の妖精』ことシャネル・ミルティーユという魔法師が百二十年前に設置した魔法の扉。謎の暗号文が書かれている〉
〈通路を
〈解説ありがと〉
〈思いっきり勇者の関係者なんだがwww〉
〈バートさん、まさかその扉を開けようとしている?〉
〈ダンジョン・ミステリーの一つが今解明されるって事!?〉
場所を明かした
シャネル・ミルティーユは、百二十年前にバートと何度も共闘していたと伝えられる魔法師の少女である。
そんな彼女が遺した謎が、第七ダンジョン『植物霊園』に設置されている『青の妖精の封印扉』だ。
その存在が発覚してから現代に至るまで、多くの研究者たちが暗号の解読に挑み、敗北してきたという歴史がある。
「ふふ、場所を決めたのはバート様なので、何が起こるのかは私にも分かりません。明日の配信を楽しみにしていただければと思います」
エステルもまた、バートがすごい事をする予感に胸を高鳴らせていた。
ああ早く明日にならないかな、と思った——そのとき。
〈エステル、ジュリーの配信を見ろ! 大変な事になってる!〉
焦りに満ちたコメントが投下された。
「えっ、ジュリーさん……? な、何かあったのですかっ!?」
頼れる先輩の笑顔が浮かび、エステルは一気に血の気が引くのを感じた。
〈なになに!?〉
〈急いで見てくれ! 緊急事態だ!〉
〈うわ、マジだ!〉
〈エステル、これはマジでやばい!〉
他の視聴者たちも
「まさか、私と同じようにっ……!?」
未知の場所でドラゴンに殺されかけた記憶が蘇り、エステルは背筋を凍らせた。
エステルは慌ててパソコンを操作するも、手が震えて上手く行かない。
(そんな、嘘、やだ、ジュリーさんっ……!)
恐怖で呼吸が上手くできない。息苦しさで肺が痛い。
目元に込み上がる熱で視界が歪む中、エステルは何とかジュリーの配信を開き——。
『そんなわけで! 今から探索者となったバートさんと一緒に、「
——ジュリーの元気な
☆—☆—☆
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