第4話 未知との遭遇
「君の名前は?」
バート・リモナードは、目の前で
長く濃い金髪の両サイドの一部を、銀青色の星型の髪留めでまとめている少女。
大きなダークブルーの瞳と白い肌。
幼さを残した顔立ちは、庇護欲をそそるような可憐さを宿している。
そんな彼女はハッと身体を揺らして、慌てた様子で立ち上がって頭を下げた。
「え、エステル・パルフェですっ。助けていただいて、ありがとうございました……!」
「お礼を言うのは俺の方だよ。君が封印を解いてくれたんだよね? ありがとう、エステル」
礼を告げると、エステルはおずおずと顔を上げた。
「封印……それでは、やっぱりあなたは……」
「バート・リモナード。勇者として魔王を倒したけれど、あいつの最期の抵抗を受けて封印されていたんだ」
〈封印……?〉
〈勇者って魔王と相討ちじゃなかったんか〉
〈マジで本物!?〉
〈石像から出てきたし、本物やろうなぁ〉
〈やばい、歴史的瞬間じゃん!〉
〈何にせよエステルが助かって良かった〉
エステルが耳につけている「何か」から声が漏れ聞こえる。
自分たち以外の誰か、しかも少なくない人々が今もこの場面を見ているらしい。
(歴史的瞬間、か……)
バートは頭の中で思考を巡らせる。
エステルの頭上でフワフワ浮かんでいる物体も奇妙である。
とはいえレンズらしきものが付いているため、恐らくはカメラの一種で、これが離れた人たちにこの場面を届けているのだろうとは推察できた。
エステルの左腕に付いている器具に自分たちの姿が映っている事からも、間違いはないだろう。
バートの知らない技術が、普通に人々に受け入れられている。
だからこそ、自分が封印されてからかなりの年月が経過しているのだと窺える。
「エステル、今ってカメリア歴何年かな?」
「えっと、2020年です」
「ありがとう。俺が魔王を倒したのが1900年だったから、ちょうど百二十年経っているのか」
——つまり、共に戦った仲間たちは既にこの世にはいないのだろう。
胸に去来する
仲間を喪う痛みは、もう何度も何度も味わっている。
慣れる事はないけれど、顔色を変えずに隠す事くらい造作もない。
「エステルは、どうして俺が勇者だと思ったの? 異様な状況だったとはいえ、勇者という可能性が真っ先に浮かぶとは思えないけれど」
「あっ、それはドラゴンを倒した魔法を見て……あれ、『光の
「おお、よく知ってるね」
その辺りの固有名詞も含め、当時は勇者の詳細は極一部の関係者しか知り得ない機密だったけれども。
「『魔王戦争全史』という本に、勇者の固有魔法として『蒼穹より降り注ぎ敵を呑み込む光条』と書かれていました。その描写にぴったりだと思ったのです」
「なるほど、そんな本が」
バートの名前が知れ渡っている事といい、きっと知人の誰かが書いた本なのだろう。
〈魔王戦争全史って何?〉
〈大賢者マーシアが今から八十年くらい前に書いた本〉
〈探索者試験に出るから、探索者目指すなら必読だよ〉
「……大賢者マーシア?」
気になる単語が出てきた。
バートはエステルの頭上に浮かぶ物体に目を向ける。
と、エステルが「あっ!」と叫んでジャンプ。飛行物体を両手で掴んだ。
「ごめんなさい! 配信したままでした。すぐ切ります!」
エステルが頭を下げる。
どうやら、相手に無断で配信とやらをするのはマナー違反のようだ。
慌てた様子で何やら操作を始めるエステル。
バートはそんな彼女を言葉で止めた。
「待って、エステル。配信とやらは切らない方が良いよ」
「えっ?」
「君は何かトラブルがあってここに来たんでしょう? 君の身を案じている人もいたし。だったら、その人たちのためにも切らない方が良い」
それに、ここで配信を止める事はエステルにとっても悪手となり得る。
最悪の場合、勇者と秘密裏に交わした情報を得ようと、誰かしらが干渉してくる可能性もある。
エステルに危害が加えられる恐れも否定できない。
先行きが不透明な状態で、秘密を作るような外観を形成するわけにはいかなかった。
現代の人間が過去の勇者にどれほどの価値を見出すかは不明だが、用心しておくに越した事はないだろう。
「バート様……承知いたしました。それでは、このまま続けさせて下さい」
「それが良いよ。そもそも、最初から他の人たちが見てる事には気づいてたし」
「あ、そうだったのですね……」
恐縮したように肩を縮めるエステルに、バートは安心させようと微笑みかけた。
「それより、俺も現代の人たちと交流してみても良いかな? 知りたい事が色々あってね」
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