ひいな、腐る
「はあ、寒うう……」
布団からむき出しになった顔の肌を刺すような寒さで、その朝、私・
ベッドの隣で眠る彼女は——ひいなは、また「いつもと違う姿」になっていた。
血が通っているのか定かではない青白い肌。
右頬に空いた大穴。
大きく開かれた両目は、どちらも白く濁っている。
まるで死体だ。今日はゾンビか何かかな。
ベッドから体を起こしてみた。
あれ、枕元になんか転がってる。
よく見たら取れた左手。
ともかく朝の挨拶だ。
「おはようひいな。あ、手ここ置いとくね」
「……あー」
呻くような声で返してくるひいな。この様子だと、今日はあまり会話はできない日かもしれない。
まあ何とかなるだろう。
もう慣れてしまった。
最初こそよく悲鳴を上げたけど、今ではこんな感じのことも日常茶飯事。
「朝ごはん、食べられそう?」
右手だけで上手いこと体を起こし、私に続いてベッドからのそのそ立ち上がったひいなに尋ねる。
日によって食べられるもの、食べたいものがだいぶ違うから。何も食べない日もあるし。
「うー」
ゆっくり首をかしげるひいな。
「食べたくても胃が休暇中かな?」
「おー」
ゆっくり頷くひいな。
「そっか。じゃあ匂いだけでもどうぞ」
焼き立てのトーストを食べる前に、テーブルの向かい側に座るひいなの顔に近づけたら、その香りにひいなは嬉しそうに鼻をひくつかせる。
その鼻も、根本あたりから少し取れかけてるけど。
匂いと言えば、今日のひいなからは腐った卵のような匂いが漂ってる。
よく見れば指先や足先からも妙な色の液体が、ぽたぽた、ぽたぽたと垂れている。
本人はどっちにも気付いてないっぽいけど。
まあ、ゾンビだからしょうがない。
「あー……」
ひいながゆっくりとソファに置きっぱなしにしていたひざ掛けを指さす。
寒かったんだ。取りに行って、ひいなの膝にかける。また指から汁が垂れて、ひざ掛けを汚したのが視界の隅で見えた。
まあ、洗えばいい。
死体をあっためるのもどうなのか…… とも思ったけど、暖房の温度を少し上げた。
バターだけ塗ったトーストを食べ終えてから、そっとひいなの穴が開いた頬に触れてみた。
冷たい。やっぱり、昨日とまた違う。
「うー?」
白濁した目で私を見つめてくるひいな。
あれ、片目いつの間にかなくなってる。その辺に落ちてるかもしれないから後で拾っておこう。
まあ、冷たくてもなんでも。
椅子から身を乗り出して、僅かにあるひいなの右頬の肉にキスをした。
「お……」
僅かながらひいなの表情が変わったのが見て取れた。
ああ、今日もいつも通りだ。
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