大怪獣特区の魔導師たち。

白亜

0話 白亜の怪獣

 ──天地が揺らいでいる。


 山ほどの巨体をした怪物が、空を泳ぎ咆哮を上げていた。

 その肉体は石灰石を砕き積み重ねたような白と灰を纏っている。腹側には、魚の鱗のように無数の眼がぎっしりと並び、それらが一斉に瞬くたび形容しがたい恐怖に襲われる。


 そんな怪物の眼下で一人の男が地に伏せ蹲っていた。


「クソッ!何なんだよあのバケモンは...!」


 秘伝の透過魔術で姿を消していなきゃ、今頃俺も他の奴らみたいに纏めてミンチになっていただろう。クソッタレめ。


 幸か不幸か、失うのは片足だけで済んだがこれでは到底逃げ切れる気がしない。

 血が止まらない。痛みはとうに通り越して、死が少しずつ少しずつ、着実に近づいてきているのを感じる。


 あぁ、これは...


 そんな諦めに近い絶望で思考が埋もれていく。


 片足を失う間際、怪物が召喚したらしい白い四芒星が空間を歪め、ねじ切るのを目にした。

 何だアレは。

 既存の魔術の解釈じゃ到底再現出来ない現象だ。

 それに全身巻き込まれた奴らは――思い出すだけで吐き気がこみ上げた。


 とにかく、こんな怪物見た事がない。魔王ですらまだ理の内にいる存在であったはずだ。


 俺たちは、ただいつも通りここの特殊な魔力環境について調べていた。それだけだったのに。


 一体何人死んだのだろうか。考えたくもない。



 ……そろそろ、魔力が切れる。そうなれば透明魔術も効果が切れるだろう。

 

 血も流しすぎている。


 俺も、殺されるのか。

 畜生、畜生ッ。


 もう少しすれば、救難信号に気付いた本隊がやってくるかもしれないがまず間に合わない。



「クソッ……クソッ……このまま終わってたまるかよ……」


 男は震える人差し指を宙に突き出し、文字を紡ぎはじめた。死が確定したというのなら、せめて少しでも奴を苦しめてやりたい。そうじゃないと報われない。


 書き終えると不思議と震えは止まっていた。


 自身の体が少しずつ、まだらに色付きはじめたの気付く。


 男は手を置き、書き上げた一冊のノートにとっておきの魔術をかける。


 ――全ては少しでもヤツを討つ手助けになることを願って。


 少しして白色の巨獣が二度目の咆哮を上げた。

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