第2話
「そういえば、さっき人魂? を吸い込んでいたけれど、それは何のためにしたの?」
「ん〜? そりゃ話せるようになるためだよぉ」
話せるようになるため?ならばロニカは元々話せなかったのか?
「人魂ってさぁ、要は人の魂だろう?だからさ、僕の中に人を入れたんだぁ。そうしたら、人とお話できると思ってさぁ」
「なる……ほど?」
何を言っている?人魂を取り込めば人と話が出来る?人に近づくってこと?ひとまずそれを置いておいて、雨をしのげる場所へ行かなくては。
ますます雨は酷くなるばかりか、大きな雷鳴まで聞こえてきた。近くに落ちたって不思議では無い。
「ロニカ、雨を凌ぐために移動しよう」
「ん〜? 人間は雨に弱いんだ?」
「雨に濡れたままだと風邪をひいちゃうからね」
「かぜ……。ん〜、大変なんだねぇ、人間って」
そうそう、大変なんだから。
足早で先へ進み、近くにあった空き家へ避難する。ただの雨宿りだ。けして犯罪目的では無いので、お巡りさんも許してくれるだろう。
更に雨は酷くなり、屋根を激しく叩きつける雨音に加えて雷鳴まで響いていた。
「この雨じゃ帰るのは難しいかもなぁ」
「?帰らないってこと? 」
「あー、まぁそういうことかな」
「なら僕に人間のこと教えて!人間になりたいんだ!」
「なんで人間になりたいの?そのままの方が強そうだけど……」
「だって、人間は可愛くて、弱っちくて、でも諦めない心を持っていて、へこたれないだろう?」
そんな人間になってみたいんだぁ。
便宜上彼と呼ぶが、彼はそう言って体育座り? のような体制で顔部分を埋めた。
「君に話しかけたのはさ、目の前に居たからって言うのもあるんだけど、心がお日様みたいにキラキラしてたからなんだぁ」
「お日様?」
「そー、お日様。キラキラしてて、ふんわり温かくて、なんでも包んでくれそうな感じがしたんだぁ」
「お日様ねぇ……。私は確かに弱っちいけどさ、へこたれない心とか諦めない心は持ち合わせてないよ」
彼の言うことはよくわからない。私の心がお日様みたいだなんて。
表情が変わらなくて、何考えてるか分からないっていつも言われてるのに。
誰もがみんな私を避けるのに。変なやつ。
「んふふ、でも度胸はあるでしょ? 少なくとも僕に話しかけて友達になってくれたんだから」
……あまり褒められ慣れてないから、どこかむず痒くてソワソワとしてしまう。
だが、その褒められた相手は得体の知れない生物だ。人間になりたいとはいいつつも、私からすれば人間になるメリットはないように思える。
……ひとつ選択肢を間違えれば、先程の人魂のように私も吸収されてしまうんだろうか。そう考えるだけで、背中には冷や汗をかき、喉がカラカラと乾く。好奇心で首を突っ込んだはいいが、一体いつまでロニカと一緒にいなければならないのだろう。
いつのまにかより鮮明になっていた、ロニカの大きな漆黒に浮かぶ真っ赤な瞳に射止められた瞬間思い知った。
あぁ、好奇心で話しかけるんじゃなかった、と。引き返そうにも、ロニカには泥濘のような粘度がある。進めば進むほど足元がおぼつかなくなるような。
けれど前に進むしかないのだと思い知らされた。私は好奇心1つで自分を安く売り叩いてしまったのだ。
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