家ごと異世界転移したら、家が魔王城になってヤモリがドラゴンに変化した

赤城ハル

第1話 異世界転移

 深夜、就寝中に大きな地震が発生した。

「ぬうぉ!」

 ベッドで寝ていた俺はすぐに起き上がる。家は揺れて、机からはペンが本棚からは本が落ちていく。俺はスマホを取ってから部屋を慎重な足取りで出る。

「健太、無事?」

 ちょうど大学生の姉と小学生の妹が部屋から出てきたところだった。

「ああ」

 そして親の寝室から父と母が出てきた。

「皆、落ち着いて、喋らずに一階に!」

 俺達は階段を下りて、玄関へと向かう。

「母さんは遥と胡桃と共に外へ。健太は俺と爺さん達だ」

 父と俺は祖父母の部屋へと向かう。

 廊下を曲がって爺さん達の部屋に入ると、爺さん達は起きていて悲鳴を上げていた。

「無事か。外に出るぞ。健太は婆さんを頼む」

 俺は婆さんを背負って、爺さんを背負った父と共に玄関へと向かう。

 玄関には母と姉妹がいた。なぜか戸惑った表情をしていた。

「どうした?」

 父が三人に聞く。

 地鳴りは止んでいたが余震の可能性もあるから外に出るのが普通なのだが。

「それが……外が……」

「?」

 靴を履いて父は戸を開ける。

「さぶっ!」

 玄関から冷たい風が吹き、俺は寒さで首をすくめた。

 12月とはいえ、こんなに寒かったか?

 父は戸を開けたまま、止まっていた。

「どうしたの?」

 父の後ろから外の様子を見る。

 外は真っ白で何も見えなかった。

 真っ白?

 深夜だから真っ暗なのはわかるけど……真っ白?

 父が一度戸を閉めて、爺さんを降ろす。俺もその隣に婆さんを降ろした。

 そして父が戸を開けて外に出たので、俺も続いて外に出る。

 外は真っ白な雪景色。そしてゴーゴーと鳴る吹雪。

「さぶっ! えっ? 何これ? 北海道じゃないんだから」

 俺は腕をさすりながら言った。肌が出ている顔や耳、手が突き刺すような寒さで痛い。

「戻るぞ」

「ああ」

 地震もやばいが寒さで凍死してしまう。

「服を着るぞ」

 皆は冬服とコートに着替えて、玄関に集まる。玄関に集まったのは余震のため。

 まず俺と父が外に出て、様子を伺う。

「お隣さんは無事か?」

 外に出た父は視界が遮られる猛吹雪の中、お隣さんのおうちに駆け足で向かった。

 だが、すぐに戻ってきた。

「どうしたの? 忘れ物?」

「……えっと」

 父は返答に困った顔をする。

「お隣さんは?」

「……それがなかった」

「へ?」

「隣がない」

 俺はお隣のお家へと向かう。

 そして父の言った意味を悟った。

 お隣はなかった。

 地震や雪で潰されてなくなったとかではなく空地あきちだった。

「ないだろ」

「ああ」

 でも、他はと。

 俺は駆けた。

「おい、あまり遠くに行くなよ。迷ったらどうする?」

 近所で迷うなんてことはないがこの猛吹雪。

 そして目印となる建物がない。迷ってしまうかもしれない。

 それでも俺は周りを伺う。

 ない。

 しかも空地になったというわけでもなく、地形そのものが変わっている。

 道も坂もなく、逆に何もなかったところに木々が生えていたりゴツゴツとした岩が不規則に散らばっている。


  ◯


 庭に戻るとちょうど父が畑の方から戻ってきた。

「他の家はどうだった?」

「なかった。そっちは畑や田んぼはどうだった?」

「小さい畑は無事だが、奥の畑と田んぼは……なかった」

 小さい畑とは母が趣味で作った家庭菜園。柿の木、ジャガイモやニンジンなどが植えられている。

「なかった。それは消えたってこと」

「ああ。消えたというか地形が変わってる」

「そっちもか」

「というと、そっちも?」

 俺は頷く。

「ここら辺は俺達の知らない土地だ」

「そんなことなんてあるか?」

「普通はない」

「とりあえず家に戻ろう。寒い」

「ああ」

 家に戻ると玄関にいた母から問われた。

「どうだった?」

「とりあえずリビングに行こう」

「地震が発生するかもしれないじゃない?」

 父は祖父母を見て、

「外にいるのも危険だ」

 そして皆はリビングはと向かうことになった。俺はまた祖母を背負って歩く。

「電気は?」

 真っ暗な廊下を進んでいる時、俺は誰ともなしに聞いた。

「つかないのよ」

 姉の遥が答えた。

「停電?」

「それだけでなく、水もガスもダメ」

「ありえなくない?」

 停電はあくまで電気系統だから水道もガスが止まるなんてありえるだろか?

「そんなの知らないわよ」

 遥は苛立ちげに返す。

「それとスマホも圏外……というか壊れた」

「胡桃のスマホは?」

「私も壊れてる。お母さんのも」

 リビングに着いて祖母を降ろす。

 そしてポケットからスマホを出して確かめる。

「圏外……ああ、壊れる」

 時計はバグり、98時81分と表示。アプリはどれも反応なし。

「家の固定電話も無理ね」

 母が受話器を取り、固定電話のボタンを操作しながら言う。

「顔色笑いが大丈夫か?」

 父が母の顔を見て言う。

「寒いかしらね」

「よし。寒いから毛布を持ってこよう」

 父と母、姉、俺は毛布を取りに行く。


  ◯


 家には昔の薪ストーブがあり、薪を入れて俺達家族は集まって暖を取る。

「まさかオブジェ化していた薪ストーブが役に立つとはな」

「本当ね。取っておいて正解だったわ」

「そんなことより外はどうだったのよ」

 遥が外の様子を父と俺に聞く。

 父と俺は外で見たことを母達に話す。

「──というわけだ。倉庫と近くの畑は無事だった」

「何よそれ。意味わかんない」

 姉が真っ先に返答した。

 母は呆然とした感じで、妹は状況整理に困惑した様子。祖父母は「世の終わりかのう」と呟く。

「これってさ、つまり、あんたの好きな異世界転移モノじゃない?」

「別に異世界転移好きじゃないし」

「オタクってそういうの好きでしょ」

「オタクじゃねえし」

「マンガとかゲーム好きじゃん」

「それくらい普通だろ。姉貴だって、ソシャゲするじゃん」

「ソシャゲはいいのよ」

「なんでだよ!」

「2人ともこんな時に喧嘩なんてしないで」

 母が口喧嘩に割って入る。

「それより異世界転移って何?」

「ええと、ファンタジー世界に行くってこと」

「私達が?」

「そうとしか考えられない」

 俺は視線を外して答える。

 言い切れる自信がないわけではない。けれど、それをはっきりと答える自信もない。


  ◯


「腹減ったな」

 俺はぽつりと呟いた。

 もう地震が発生してからどれくらい経ったのだろうか。

 時計が壊れているので時間がわからない。

「パンでも食べましょうか」

 母が毛布にくるまったままキッチンに向かい、食品棚から菓子パンと惣菜パンを持って戻ってきた。

 俺はホットドックの袋を開けて、食べ始める。

「むぎゃあ!」

 遥が驚きの声を発する。

「なんだよ。びっくりして喉に詰まらせてしまうじゃねえかよ」

「そ、それ!」

 遥が床を指す。

 そこには四つ足歩行の爬虫類がいた。

「ヤモリ、モリちゃんじゃん」

「なんでヤモリに名前なんか付けるのよ!」

 遥が文句を言う。

「仕方ないだろ。懐いたんだし」

 俺はホットドックをちぎって、モリちゃんに与える。

「普段からそうやって餌付けしてるからでしょ?」

「してねーよ」

 実際、餌付けはしていない。ただ、母や遥のように窓に張りついたヤモリを見つけると邪険したり、窓を叩いりしていないだけ。

「外に連れてってよ」

「この吹雪だと死ぬだろ」

「冬眠するだけよ」

「遥や、ヤモリは大切にの」

 婆さんが喋った。

 久々の発言で驚いた。いや、遥と認識していることにか。婆さんはよく母と遥を間違えるのだ。

「ええ!?」

「安心しなって、怖くはないから」

「私の近くに寄せないでよね。もし近寄せたら問答無用で外に放り投げるから」

「分かったよ」

「なんでモリちゃんは冬眠しなかったんだろ?」

 妹の胡桃がモリちゃんの頭を撫でながら言う。

「つい最近まで気温は高かったからかな?」

 今年は異常気象で秋が来なかったと言われている。

「それで一気に寒くなったの?」

「いやいや、それでこんなことは起こらんよ。それに地形が違うんだし」

「これからどうなるんだろ?」

 胡桃が弱々しく呟く。

 それを母が毛布越しに抱き、

「待ちましょう」

「ああ、食料はたくさんあるんだし」

 父も皆を励ますように言う。

 倉庫には収穫した玄米とジャガイモ、ニンジン、トマト、きゅうり、干し柿、漬物等が保管されている。

「問題はどうやって作るかよね」

 遥が溜め息交じりに言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る