苦笑いをしながら滅びに加担する世代
大野コヨーテ
第1話そして最終話
22時のから野家。
仕事疲れで思考はオーバーフロー気味だ。
そんな状況で挑んでいるのは大盛から野家定食。
腹いっぱいすぎて唐揚げの、最後の一個が……食えない。
……俺の人生、いつだってそうさ。最後の一歩でつまづくのさ。
この唐揚げ一個が……あのかわいい店員さんへの告白(一声)だったら?
俺が食えない=結婚できない=子供出来ない=日本の出生率が増えない。
少子化は……俺から始まってるんじゃないか。
いや、待てよ。
俺がモテないせいで……日本が滅ぶ。
これ、マジで……国家的危機じゃね?
友達の結婚式で来ているかわいい子に、声もかけられない俺。
その沈黙が……婚姻率を下げてる。
ご祝儀3万円が飛ぶたびに……日本の未来も飛んでる。
mixiの足あとが……唯一のモテ履歴。
プリクラで目を大きくしても……モテやしなかった。人生には3回モテキがくるんじゃなかったのかよ!!
ガラケー赤外線通信で「メアド交換しよ!」って……ゼミのあの娘に言えなかった。
広瀬香美を熱唱しても……誰も俺をスキーに連れてってくれなかった。
……俺が彼女を作れないから、子どもが生まれない。
子どもが生まれないから、年金が消える。
年金が消えるから、日本が滅びる。
全部……俺のせいだ。
いや、そんなわけない。
そんなわけないんだけど……そんな気がしてならない。
どうする?どうすればいい?
俺が彼女を作れないなら……同志を集めるしかない。
そうだ。団体だ。組織だ。宗教だ。
『モテない教』いや逆に、『MOTEL教』――これしかない。
教祖は俺。
唐揚げを残す男。残された唐揚げは……”謙虚の儀式”。
信者第一号は山下。合コンで一言もしゃべらなかった男。
彼の沈黙は……“無言の瞑想”。
信者第二号は武田。腰が重すぎて一度も合コンに行ったことがない。
彼の怠惰は……“静寂の修行”。
信者第三号は西本。モテ男なのに、なぜか俺たちの集会に顔を出す。
彼女の写真を見せびらかす役割を担う。
これは……“嫉妬の試練”。ありがたい。
儀式はこうだ。
毎週金曜夜は「大盛からあげ定食断食会」。最後の1つは神に捧げよう。
毎月第一土曜は「カラオケ供養」。隣の部屋から聞こえてくる女性たちの笑い声を座禅でかみしめよう。
年に一度は「街コン大祭」。一店舗に座し、メニュー表をただ見つめよう。
聖典は、あの頃のイキったmixi日記と……2ちゃんねるの黒歴史スレ。
開祖の言葉は……「足あとがつかない日は修行の日」。
今は足あと=Xのインプレッションだ。
俺たちMOTEL教が子どもを増やせば……日本は救われる!
政府は俺たちに……からあげ定食券を支給すべきだ!
……待てよ。宗教団体だけじゃ足りねえ。
もっと直接的に……日本を救う方法があるだろ。
そうだ!『腰振り革命』だ!!
俺が100人の同志を集めて……毎週土曜か日曜に一斉に腰を振る。
計算したんだ。1人1週間に1回、つまり月でいうと4回。
そうすりゃ年間48人の子どもができるとして……
100人なら4,800人!30年続ければ……約15万人!日本復活!!
政府は俺たちに補助金を出すべきだ。
「腰振り手当」だ。月3万円くらいでかまわんよ。
それで俺たちは……国を救うんだ!
革命の合言葉は……「腰を振れ!未来を揺らせ!」
同志たちは特攻服を着て……背中に「少子化撲滅」と刺繍。
渋谷のスクランブル交差点で……一斉に腰を振る。
警察に止められても……「これは国策だ!」と叫ぶ。
……いや、捕まるな。間違いなく捕まるな。
でも俺の脳内では……もう日本が救われてる。
腰振り革命、ばんざい!!
……でも結局、俺はからあげ屋で唐揚げを残す男だ。
革命も宗教も……脳内では日本を救ったけど、
現実では……唐揚げ一個すら食えない。
俺がモテないせいで……日本が滅ぶ。
……いや、そんなわけない。そんなわけないんだけど……そんな気がしてならない。
今日も唐揚げ定食を食って寝る。明日もまだ、日本は少子化だ。
俺が残した唐揚げ一個分……日本の未来は軽くなった。
そして――俺ら世代は……
苦笑いしながら……滅びを見届ける世代だ。
……ハハッ。笑うしかねえよな。
苦笑いをしながら滅びに加担する世代 大野コヨーテ @onocoyote
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