【わ行】

【わ】


私の祖父はいつも血のついた生肉を台所で音を立てながら切り刻んでいたのです。

はい。骨も砕くような大きな音で木のまな板が折れて包丁がかけてしまうのではないかと思うくらいに。


小さい頃の私はいつも足元に飛び散った血を見て不思議に思っていました。祖父は肉を切りながら合間合間に切り刻んだ肉を口にしてまたドンドンと音を立てて肉を切るのです。


鳥や豚の肉だと思うのですが、何の肉を切り刻んでいたのかは今でもわからないままです。

いえ、聞こうにも無理な話なんです。祖父は突然消えてしまい、今はどこにいるかもわからないのですから。


【を】


小櫛をぐしで髪を綺麗にしましょうね」鏡台の前で私の髪をとかしながらねえねが言う。

「誰にもけがされていない綺麗な綺麗なお顔のあなたには、綺麗な綺麗な黒い髪が良く似合う」ねえねはそう言って頬を撫で、髪を撫でる。

「ずっとずっとねえねと一緒よ、約束してね。どこにも行かないでね」座敷牢の中で繰り返し、繰り返しねえねは言いながら私の髪をとかし続ける。


【ん】


「んとね、あのね。色々話してもらったけど、人に話さなくてもいい話っていっぱいあるんだよ。物語は自分だけのものなんだからね。でもまた話したくなったらお話聞かせてね」

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【あ】からはじまるほりおこしてはいけない物語 想月ルナ @sozuki_luna

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