楽園に住む者は悪夢を見るのか?

羽の赦し記録者

戦闘記録001題名戦争が消えた日

「ふぅ…………」


ただ、薄く光るカッターよりも鋭利に……そして明確にその刃を突きつけるという殺意を持って息を吐き切る。

だが、それは本当に刃物を突き立てる訳ではなく、俺の中で景色スコープだけに集中し、環境音ノイズを消すためのだけの一種のルーティンである。


ザァーーーというホワイトノイズが流れるように意識して、その音が頭蓋の中に跳弾しながら響くような感覚を感じて一切の雑念を消す。

だが、身体が煮えたぎるように熱くなる。

それは教訓いしが俺を戦いに集中させているようでもあった。


そして、景色に映る人間に向けて、狙いを定めて、トリガーに指をかける。

そのトリガーが俺に残された最後の良心のように本物の重みを持たせた……。


俺は今から一つの生物にんげんの終わりを見届けなければならない。

このトリガーの重みはそれに耐えかねて。これ以上、戦果を挙げたくと言うように重厚で……確かな……そして、指に冷たい感触を遺して俺の指を刺激した。


その瞬間、脳の中でホワイトノイズと共に『あの人』の怨嗟に満ちた呟きが支配する。


『殺せ……殺せ……!!生き残るために……!!』


その声がホワイトノイズより響いた時、俺は目を思い切り開くと……。


対物ライフルの引き金を引いていた。


ドボーガボーン……!!!


確かな感触反動を肩に伝えて……痺れを引き起こさせた。

そして、マズルフラッシュが視界を少し明るく照らす。


その瞬間……俺の瞳にひと粒の輝きが光った……。


(またやってしまった……)


という慟哭を心に出して数秒遅れて……対象にんげんが爆ぜた。

そしてスコープに血飛沫が舞うのが見える。


(何度……同じ事を繰り返せば……この苦しみは終わるんだ……)


その絶望にも似た魂の叫びは俺の視界を一瞬、砂埃が舞って遠くが見えなくなるように灰色に染まった。


しかし……次の瞬間。


『お前だけが狩人かりうどだと思うな……!!』


それはまるで大音量に鳴る雷鳴のように、俺の意識を急速に現実に戻した。

撃った後に聞こえる『あの人』の怒声……。


その怒声は俺に新たなる意識を呼び起こされる……。


(隠れなければ……!!)


そうして、俺は森林迷彩が施されたポンチョを刹那に着込むと、すぐさま銃を下にしないように転がって草陰と同化する。


その瞬間、俺は恐怖のあまり爪を噛んだ。

しかし、その歯はガタガタと震えてそれに連動するように手が震えた。


それは隣で鮮血に舞散りそのまま絶命した隣人兵隊を思い出したからである。

その血が顔面に飛んで生暖かく、吐き気を催す鉄の匂いを今も俺は忘れることは出来ない。


(落ち着かなければ……でないと俺は……!!)


俺はその体験を思い出す度に自分が狂死する事を恐れていた。


「汝、月に映る光なり……汝、闇に潜む湖畔こはんなり……」


無意識に心を落ち着けるために『あの人』が大好きだった自作の子守唄こもりうたを小声で歌った。

震えが収まる。


「あー戻れない。割れた陶器は元には戻らない……だが、人生はやり直せる……」


何分……何十分……。

何時間そこに居ただろうか?


少なくても俺が生きているということは今は観測されてないということだろう。

その事実を確認すると俺はトランシーバー型の無線機に手を伸ばし、通信のボタンを押した。


「こちら、指……。一人排除した。観測手スポッター。また、観測し逃したな……次、同じことをしたら、俺の弾がお前の脳髄をぶちまけることになるのを肝に銘じておけ!!」

「……す、すみません!!」


無線で撃破報告と無能に対して最後の通告を行うと無能はまるで、獣を前にして悲鳴をあげるような声で謝罪をしてきた。


俺は草むらから出るとしゃがみ走りで銃を抱えるようにして最速で陣地へ戻った。


───戦争。


それは古今東西、どこでも行われてきた人間同士の殺し合い。

世界がそれをやめた事など一度も無かった。


そう。

人間とは争うために生まれてきたのだ……。


と、神が天から獣同士の争いを檻の外から見て楽しんでいるとしか思えないほどに陰険で……悪辣で……。


切ない世界。


そんな世界に一つの終焉が訪れて……そして、一つの生誕が行われた。


───────


「帰還……命令ですか?」


俺が陣地に戻って上官から言われたのは、そんな言葉だった。


「ああ、オレも含めて全軍帰還命令だ……例外は無し。基地も今すぐに撤去。これは国からの命令だ……何があったのかは防衛大臣に問い詰めても『戻れば分かる』の一点張りだ」

「りょ、了解しました……!!」


俺はそう言って敬礼をした。


……。

…………。


その日、全ての戦争による死者が無くなり、戦争による死者は居なくなった。


そして、俺の部隊だけでなく、全世界に同時多発的に戦地というものから軍人が消えた。


△△△△△△△△△△


流れ星を見た事はあるか?


俺はある……。

戦地に孤立して、動けなくなった夜のことだった。


火を炊くとすぐに敵にバレるため、まるで世界に俺一人しか居なくなったのかと錯覚させる程、静かで……根源的恐怖によって体感する寒さすらも北国に放り込まれたと思わせる程の世界で俺は唯一、恐怖で変な気を起こさないように草陰に仰向けに隠れて、そらを見ていたら、ひと筋の光が夜空を駆けた。


そして、次の瞬間、宙に凄まじい量の煌めきがまるで、湖の波に揺れるように反射した光が動くように……世界に壮大な輝きのうねりを見せた。


「…………」


俺はそれを見て……何を思ったのか……。


世界は美しいと感じたのか。


それとも……。


残酷だと感じたのか……。


今でもその答えは出ない。


△△△△△△△△△


光の軌跡が乱反射して、左右あちこちに見えた。

俺は初めて流れ星を見た時を思い出して我を忘れていた事を自覚すると、意識を現実へ戻した。


その光の乱舞を描くのは銀髪の長い髪を一括りにしているが、腰まであるために途中でバラバラに分散して、あちこちに乱れさせている少女……。



それはまるで雨の日の次の日に見る蜘蛛の巣のようで嘆息に似た息が口から漏れそうになった。


そして、彼女が腕を止めると光の乱舞が止まった。

そう、彼女は俺の目ですら捉えるのが困難な速度で二振りの反り返った細い片刃の剣……刀に似た何かを振り回すことによって描いていたのだ。


例えるなら……。


そう。


流星の斬撃……。


それはいわゆる遺伝子の神秘。

アルビノの状態の少女が起こした剣撃だったのだ。


「……っ!!」


そうして、俺の方を見ると、まるで『こいつも自分をそういう目で見るのか……?』という感情を施した目で俺を睨みつけてきた。


「防衛大臣……この世界は……?」

「驚いただろう?これが……次世代型戦争代替となった場所……。誰も戦死することない戦場」


そうして絵に書いたようなタヌキ親父のような男。防衛大臣は両手をその場で広げると、世界がまるで高級なラッパのような音に包まれてファンファーレを俺の中で鳴らすように……。


「エデンの世界だ……!!」


そうして、あちこちから迷彩服を着た俺と同じ境遇の者か……それとも単純にこの世界を望んでいたゲーマーと呼ばれる人種達か分からないが、地面から光の奔流が出ると人の姿がどんどんと現れて広い荒野を覆い尽くしていく。

それはこの世界の始まるサービス開始の日。


沢山の境遇のもの達が好奇心と不安を抱きながらどんどんログインしてくる。


そう……。

これが、俺の新たなる戦場けしき


エデンという名のゲームだった。





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