第37話
風呂から上がると、里香と翔子はリビングで談笑しながら寛いでいた。
そんな二人を横目に見て、俺は床に転がっていたクッションをいくつか手に取り、並べて敷布団のようにして寝転がる。
風呂上がりはいつもスウェットのパジャマを着ている。今日も例外ではなく、快適なスウェットだ。
二人は固定のパジャマ着はない認識なのだが、今日に関しては実家から持参した猫耳フード付きのパジャマをお揃いで着ていた。
このコスプレ風パジャマ、昔にも違う種類を着ているところを見たことがあるのだが、いったい何種類あるんだろう……。
パジャマ姿の二人を眺めていると、ふと三人で暮らし始めてまだ1か月も経っていないことに気付く。
元々実家でもこうしてダラダラ一緒に過ごしていたため、今さらあまり新鮮味はなく、異性の混じった3人暮らしでも自然に生活できていた。
意外と住めば都というし、こんな状況でもどうにかなるもんなんだなと思う。
「お、枕がきた!」
「里香……人の足を枕にするなよ」
「いいじゃん。高さがちょうど良いんだもん」
「いや、足痺れるから」
里香はのんびりしすぎな気もするが……まあ普通なのかな?
一方、翔子は姿勢よくクッションの上に座り、大人しくテレビを見ている。
俺は足元にできた“お荷物”をどうにかできないか考え、ふと名案を思い付いた。
「翔子さん、お膝貸してくれませんか?」
「んー? 膝枕してほしいの?」
「いや、里香の枕になってほしいんだ」
「あぁ、じゃぁダメ」
「え? ひどっ!?」
やはりお荷物はどこも引き受けてくれない。
仕方なく、俺が翔子に膝枕してもらい、平等性を図ることにした。
足元で「私の扱いおかしくない!?」と抗議する猫耳も無視し、スマホでSNSを見るために画面へ視線を向ける。
「そういえば明日、園原先輩とはどう話すつもりなの?」
「どうって、普通に断るつもりだよ。もちろん丁寧にね」
里香の唐突な質問に、俺はちょっと意地悪を思いつき、嫌味っぽく返答する。
思わずにやけた俺の表情に、里香は意図を察してくれたようだった。
けれど少し困り顔で、そして心配そうに口を開く。
「うぅ……確かに食事中にちょっとイラッとして乱暴な感じになったけど……明日は本当に一人で大丈夫?」
二人の機嫌が戻った後に、俺は明日の先輩との話し合いは一人で行くと彼女たちに告げた。
今日の会話で、里香や翔子の記事は書かなくていいという先輩の言質を取れたため、最初から二人を同席させないことにしたのだ。
「亮平。話の雲行きが怪しくなったら、とりあえず逃げてきてね。その時は私がきっぱり断ってみせるから」
翔子が意地悪そうに笑う。
できるだけ頼らないようにしようと心に決めた。
――そう考えざるを得ない笑みだった。
……これがフラグにならないようにしなければ。
とりあえず、ある程度二人に誤解が解けたので一安心だ。
さて、明日はどうなることやら。
***
翌日昼休み、俺は一人で食堂へ向かった。
昨日と違い、昼休みに入ってすぐなので、多くの生徒が賑わっている。
さて、ここに来たのは良いものの、園原先輩はどこだろうか?
とくに連絡はせずに、たぶん会えるだろうくらいの認識で、食堂へ来てしまった。
もっとも、連絡先など交換はしていないため、連絡したくても、できないのだが。
ひとまず、列ができている券売機の順番に俺も並びながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
人は多いし、死角も多い。
なかなか園原先輩を見つけられず少し焦りが生まれ始めたところで、なんとか彼女を見つけ出した。
券売機で食券を購入してカウンターでカレーを受け取ると、俺は真っすぐに園原先輩のもとへ向かう。
「なに、今日もカレー?」
「えぇ、いつも迷っちゃうので、安定のカレーにしちゃいますね」
「そっか。美味しいからね。私も好きだよ」
先輩へ返答しながら、対面の席に腰を下ろす。
手を合わせてからスプーンを手に取り、カレーを掬う。
学校で提供されるカレーにしては、ここのは随分と豪華だと思う。
何せ具がゴロゴロとしているし、肉も厚みのある牛肉が使われている。
食べ応えもあるし、大盛にもできるので、重宝していた。
カレーを一口食べながら、ちらりと先輩の様子を伺う。
小さな口で美味しそうに食べる姿は、とても可愛らしかった。
もっとも、いくら背が低く幼げな容姿だからといって、一学年歳上であることを考えると、その感想も失礼なのかもしれないが。
「そういえば、彼女達はどうしたの? 今日は一緒じゃないみたいだけど」
「……いつも一緒なわけではありません。今日は別です」
「ふーん、別……その割には随分近くにいるようだけど?」
先輩の指さす方向を見ると、二つ隣のテーブルで里香と翔子が昼食をとっていた。
どうやらいつの間にか近くに座っていたらしい。
さきほど園原先輩を探している時にはいなかったから、後から狙って近くに座ったであろうことは見え透いていた。
「先輩、あの二人はいつからそこにいたか分かりますか?」
「うーん、君が席に着いた辺りじゃないかな? さっきまで誰も座ってなかったと思うよ」
やはり偶然ではなく、敢えて俺たちに近い席を選んだようだ。
こちらに呼ぶのか? そう言いたげに目配せをしてくる先輩へ、俺は無言で首を振る。
昨日の二の舞になるのは目に見えているし、やはり二人のことを記事にされるのは嫌だった。
俺は里香と翔子に聞こえないように、小声で先輩へ話しかける。
「先輩、今日は俺と二人だけで話してもいいですか?」
「――あぁ構わないよ。君の記事を書かせてくれるならね」
こちらに合わせて、小声で先輩も答える。
「はい、わかっています」
「…………そんなに二人の記事は嫌なの?」
「…………嫌ですね」
自分がどんな顔をしているのか、わからない。
ただ、俺を見る先輩の表情が、意外なものを見た時のような、そんな顔をして。
なんだか生暖かい微笑みを浮かべた。
「……そっか。なら仕方ないね。本当は二人の記事も書きたいけど――可愛い後輩が協力してくれるなら、約束通り我慢しようかな」
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