第18話
「ねぇ、里香ちゃんばっかりズルくない?」
「ズルいと言われても……どうしろと?」
「私、結構頑張っているし、労われて然るべきだと思うんだけど」
「……左様ですね」
翔子には日頃からお世話になっている。催促をされて断る権利など俺にはない。
「里香、順番ってことで次は翔子でもいいか?」
「え~。うーん。……しょーがないから一度譲ってあげる」
「一度ってことはまだ続くのね」
「当たり前でしょー」
「はぁ……わかった」
こちらが強く出られないことをいいことに、不当な扱いをされているような気もするのだが、しかたがなく受け入れるしかない。
俺は自身の背後にいる翔子へと向きを変えた。
背後を振り向けば既に里香同様に、後ろ髪を前へ梳き終え、白く綺麗なうなじを露わにさせた翔子が待機済みの状態だった。
「おねがいしまーす」
「はいよ。まあ翔子には確かに苦労かけてるし、サービスしますよ」
「えへへ。楽しみ」
翔子の肩へと手を添えて、ゆっくりと力を込めていく。
指から伝わる凝り具合は、里香よりも遥かに翔子の方が重症そうだった。カチコチと表現しても良いだろう。
まだ可愛げのあった里香の凝り具合と比べ、翔子のそれは昔揉んだ母の肩に似た石のような固さだった。これは正直いって辛そうだ。
「お前……すごい凝ってるよ」
「えーほんと?」
「これは流石につらいだろう」
「うーん。あまり気にしたことないから分からないなあ。凝ってるって感覚がよくわからない」
「いや、だとしたら今のこの状況が凝ってるってことだよ。ほら、これだと痛いだろ?」
俺は肌の表面をなぞる程度の力加減から、少し指が沈む程度の塩梅に力を込める――つもりだった。
「イタッ! 痛い痛い!」
「おっと、ごめん。加減を間違えた」
どうやら力加減を間違えてしまったようで、翔子の肩に俺の指が想定以上に沈み込んでしまった。
次の瞬間には、痛みでひっくり返るように俺の方へと倒れ込んできた翔子は、俺の胸元に後頭部を当てならが、上目使いでこちらを睨みつけてきた。
その目尻には涙が浮かんでいるようだ。
「もっと! 優しく!」
「ごめん。弱めにやるから」
「最初くらい優しくていいから!」
「わかったよ」
涙目で眉を寄せながら睨んでくる翔子に謝罪をしながら、俺は彼女の上体を起こすと、今度はリクエスト通りに殆ど力を加えずに表面を摩る程度の加減で、肩から首元に肩甲骨周りをマッサージする。
「いい。すごい気持ちいぃ」
「それは良かった。もう痛くないか?」
「うん。でも不味いかも。気持ち良すぎて眠くなりそう」
そう言う翔子の声音は、確かに眠たいときに聞くような舌っ足らずなイントネーションとなってきていた。
「制服のまま寝たら皺になるぞ」
「確かに……着替えてくる」
「お、おう。眠いなら後で起こしてあげるから寝ててもいいぞ」
「……んーん。もっとマッサージしてもらう」
そう言い残して覚束ない足取りで、翔子はリビングを出ていった。
どうやらまだマッサージを続けなければいけないらしい。
「なら、私も着替えてこようかな」
「皺にならないようにちゃんとハンガーにかけとけよ」
「分かってよー! すぐ子供扱いするんだから!」
「自分が大人だと言い張るなら、せめて部屋をちゃんと片付けろー」
「――部屋は片付けられない大人なの!」
謎の理論を言い残して翔子の後に続いてリビングを出ていく里香。
二人が居なくなったリビングで、俺は疲れた手先を軽く振りながら自分自身も制服のままであったことを思いだす。
「俺も着替えるか」
自室に向かい、制服を脱ぐ。
里香に言った手前、俺が制服を脱ぎ散らかすわけにもいかず、しっかりとハンガーにかけてから、俺は部屋着へと袖を通した。
体感で五分ほど部屋で過ごしてから、俺はリビングに戻った。
既に里香と翔子は着替えを終えていたらしく、俺のことを待っていたようだ。
「逃げたかと思った」
「自分の家でどこに逃げるんだよ」
眉を寄せて口を尖らせる里香に、俺は溜息混じりに返答をする。
「それにしても、ふたりとも随分と薄着じゃないか?」
まだ四月だというのにノースリーブにショートパンツという、異性の目を一切気にしていなさそうな装いをした二人の姿は、思春期に俺には少々刺激が強い。
視線を逸らすべきなのか悩んでしまう程だ。
「え? だってマッサージをしてくれるんでしょ? なら薄着の方がやりやすいかなって」
「……お前らそんなに気合入れて、マッサージを受ける気なのか?」
「うーん。亮平が限界きたら終わりにするよ」
「なら、そんなに長時間は出来ないな」
長期戦を見込まれていることを知り、思わず頬か引き攣る。
適度に終わらせたい俺としては、どうにかして短時間で二人を満足させなければいけないようだ。
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