紫の真の月

森の妖精

プロローグ


 ――あの日、雨の中で拾った光が、すべてを変えた。


 いつもの東京。片隅の思い出。

 ふいに差し出されたキーホルダー。

 それは、少女がくれた、たったひとつの光だった。

 いつからだろう。

 自分の人生を“ただ消費しているだけの日々”に気づかなくなっていたのは。

 誰かに触れられることも、触れ返すこともなく、淡々と過ぎていく毎日。

 その景色を変える勇気さえ、俺は持っていなかった。


 けれど、あの日の光を忘れられなかった。

 それは月のように静かで、けれど確かにあたたかい光だった。


  そして、俺は再びその“光”に出会う。


 この物語は――

 小さな偶然が運命に変わる瞬間と、

 ふたりが“自分の人生の主人公”へと歩き出すまでの、やわらかくて、少し切ない、ある冬の恋の記録だ。

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