第1話 懐中時計

俺は外に出た瞬間ギョッとした。

外は全身の身が沸騰してしまう様な

気温、そして体に纏わりつくような

高い湿度だ。

全く、東京の夏はなぜこんなに暑いんだ?

俺は2秒ほど家にタオルを取りに行くか

迷い、それほどの事でもないと切り捨て、

RX-7に乗り込んだ。

ちょうど良い温度に設定されている。

快適な愛車に乗って俺は

ドライブに出かけた。


移動している間に自己紹介でもしていよう。

俺は寺田真守。18歳の御曹司だ。

御曹司と聞くと大抵のやつは羨ましがったり

自慢だと思ったりするだろう。

しかし俺は他のやつが羨ましい。

話が脱線しかけた、危ねえ。

その理由は後々説明するとして何故そんな

御曹司が自分で運転してまで何処へ行こうと

思っているのか、

疑問に思うやつも居るだろう。

答えは簡単、自由に色んな所へ

行きたいからだ。

思考を整理していたら誰かに話しかけてる

みたいになったな…

そんな事を考えて居たら、

埃っぽい商店街が目に入った。

暗くて地味な見た目だった。

しかし何故か俺の目にはそれが輝いて見えて

俺は近くのコインパーキングに

鉛色の愛車を滑り込ませた。


商店街へと足を踏み入れた俺は

その薄暗さに驚愕した。

まだ外は昼間なのに、

ここは真夜中のように暗い。

取り合えす何か店に入ろう。

そう思っていたら目の前に古い雑貨屋

らしきものが飛び込んで来た。

俺は何か惹かれるものを感じて

その店に入った。


「いらっしゃい〜」

商店街特有の気の抜けた挨拶が飛んでくる。

まずいな、この手の店の婆さんは

話が長いんだ。早めに何か買って出よう。

俺はその店で適当に何か買って

すぐに店を出ようとした。

しかし、俺の目の端に何かが映った。

懐中時計だ。

かなり古いのだろう。

時計の針の速度は限りなく遅く、

埃まみれで、怪しく光る深い紺の塗装は

所々剥げてしまっている。

何となく、俺はその時計を手に取った。

すると、急激に時の流れが遅くなった

…ような気がした。

俺はその時計にも何か惹かれるものを感じて

気付いたらその時計を購入していた。

…またやってしまった。

俺は衝動買いを良くするのだが、

今回はほんとにやってしまった。


まぁ取り合えす今日はこんなもんだろ。

そう思ってRX-7に乗ったとき

「おい、おぬし」

何処からか声が聞こえた。

おかしいな、窓は閉めてるし、

車内には誰もいない

俺が首を傾げていると

「おぬしじゃよおぬし」

再び声がした。

幽霊かなんかか?それともまさかの天の声?

そこまで俺が考えだすと天の声(仮が)再三「面妖な。おぬしだ、おぬし!

 …あぁ、何と愚かな。この時計が、

 このわしが話しておるのだ」

いやいや、仮に天の(以下略)が

話かけてきてももっと神々しい感じで

でてくるんだか。

少なくとも頭の中に話しかけるだけで

姿を現さないなんてことはない。

まぁでも自分の目で見るまでは信じない。

言っていた事を確かめるため、懐中時計を

袋から出してみた。

そこにはさっきまで描かれていなかった

20歳くらいの女性が不機嫌な顔をして

文字盤の中からこちらを睨んでいた。

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CharLotte 五十嵐ハヤテ @IZFINITE

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