あいどる♡あみゅーずあみゅれっと

@user__03

第1章

第1話

 70××年、春。


 “アイドル”と呼ばれる職業に就く青年男女が、ある日突然一斉に姿を消した。


 女子高生を中心に人気を集めている、女性7人組アイドルグループ『シンデレラ症候群』のファンは口を揃えてこう語る。


「目の前でライブをしていたのに、突然消えたんです‥」

 白と黒の服を着た女性が多い理由は、今回のライブコンセプトが「共犯」だったからだろうか。モノトーンで揃えられたファンの群れは、この異常現象をより一層不気味に感じさせる。


 最近バラエティ番組の出演が増えてきた、リアル姉妹アイドルグループ『ツイン⭐︎スター』のチェキ会に参加していたBさんは、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「チェキ撮って一緒に話をしていたのに‥目の前から消えたんだよ!!」

 彼の手にはメンバーと一緒に撮影されたチェキが握られている。硬質カードケースに入れられているそれは、簡単に折れることはなく、光を反射して微かに輝いているようだ。


 警察は何度も当時の防犯カメラを確認するが、そこに写っているのは一瞬の白い光と、誰もいないステージ。数秒前まで、たくさんのフリルがついた衣装を着て、マイク片手に歌って踊っていたアイドルは、白い光とともに姿を消してしまった。


 こうした現象は日本各地で同時多発に起きており、警察は「日本アイドル約1万人、一斉行方不明事件」と発表した。


 そしてその数時間後、空に届きそうなほど長く、傷一つない真っ白な塔が東京・渋谷に出現した。スクランブル交差点のど真ん中にそびえ立つ“それ”は、居合わせた歩行者や運転手を混乱させる。


 “それ”から離れようと走り出す人、スマートフォンで撮影を始める人、ハンドルを切る運転手‥。


 叫び声や歓声、車のクランクションが混じり合う中、数人の若者がスマートフォンで動画を回しながら塔に向かって走り出した。


 塔まであと10mだろうか。彼らの足がピタリと止まる。

 塔に近づこうとすればするほど足は重くなり、息が苦しくなる。目の前がぐるぐると回り、自分がいま地面に立っているのかさえも分からない。

 

 時間が経つにつれ、警察や自衛隊、多くの人間が塔へと足を運んだ。しかし、誰一人として塔の入り口に立つことができない。

 一定の距離まで近づくと、誰もが例外なく吐き気や眩暈、そして説明のつかない嫌悪感に襲われるのだ。中には意識を手放してしまう者もいる。


 体が「ここに入ってはいけない」「近づいてはいけない」と警鐘を鳴らし、塔から足を遠ざける。



70××年、夏。


 次第に、人々はこの白い塔を“ダンジョン”と呼び始めた。


 警察は国と連携し、アイドル一斉行方不明事件との関係性を調査しているが、いまだ正確な手がかりは掴めていない。

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