7-2 ゴーレムの強襲

 経年劣化で崩れそうな高層のアパート、

 その一部屋。


 頬からあご、

 首筋から胸元にかけて、

 体全体に腐敗の斑紋が広がっている。

 ボルトラは胸を押さえながら居間へ入ってくる。

 顔は真っ赤で力んでいる。

 血管がういている。


「どうした、弟や」


 声に抑揚、

 覇気がない。


 髪が真っ白、

 頬がコケている。

 一層年老いた姿のノストラ。

 こげ茶色のローブに丸まり目が点になっている。

 彼はダイニングテーブルに着いていた。

 

 ボルトラは兄を無視した。

 足を引きづりながら、

 痛ましい顔つきで冷凍ボックスから何か取り出し、

 それをキッチンへ置いた。


「ビアンカだ」


 ボルトラは声を振り絞った。


「お懐かしい。ビアンカ様」


 ボルトラはフライパンを火にかけた。

 何かの肉を切ろうとして包丁を落とす。

 物音が響く。

 キッチン下へ崩れ落ちた。


「兄さん、肉だ……」


 苦しむ弟。

 ややありノストラの首が機械人形のように向く。

 点の目が、ボルトラを見た。


「弟とは、兄から親の愛情を奪うために生まれてくる」


 抑揚のない口調だった。

 ノストラが椅子から下りる。

 杖をついている。


「調理してくれ。手順を言う」


 素通りしかけたノストラの足が止まる。

 ボルトラの体から青い電撃が散った。


「ラムに乗っ取られたか」

「ぼくの【死電アマデウス】が……」

「“ぼくの【死電アマデウス】”?」


 ほっほっほ──。

 ノストラが陽気に笑った。


「お主、それが何か知らんのか」


 ノストラはボルトラから距離を取った。

 リビングの壁に寄りかかる。


「兄さん……」

「愚鈍なる弟よ。思い上がれば謀られる。それはお主のものではない」

「何を言って……」

「誰かの、じゃ」


 ボルトラが叫んだ。

 全身から青い電撃がプラズマのように散った。

 キッチンがかき乱されてゆく。

 食器やテーブル、物が壊れ、宙に浮く。

 壁、天井、床、窓。

 すべてが電撃により崩れてゆく。

 塵がボルトラへ引っ付き、集まってゆく。


「さらばじゃ、愚弟よ。わしはもう行く。無能ゆえに、、、、、


 ボルトラの絶叫が一室に響く。

 ノストラは部屋を出ていった。



*



 焼却隊の砦。

 書斎が大きく揺れる

 本棚から本が落ちる

 ビアンカは部屋を飛び出し、

 二階の廊下へ出た。


「何が起きた!」


 中庭の隊員へ呼びかける。


「隊長大変です、市街地が!」


 砦の門から走ってくる隊員が大声で知らせた。


「ゴーレムです!」



*



 グラスヘイム

 コロッセオ近く。


 そこに巨大な人型の岩が現れた。

 全長はコロッセオを見下ろすほど。

 青い電撃を街へまき散らしながら歩行している。

 コロッセオや市場、広場──。

 あらゆる建物が電撃を浴び、崩れてゆく。

 瓦礫が、

 人が、

 物が、

 宙へ舞う。

 引っ張られる。


 そして人型の岩に吸収されてゆく。


 焼却隊が現場へ到着した。

 地震が起きてまだ10分も経っていない。

 すでに広場付近は焦土と化していた。


 ビアンカは見上げる。


「すべてこのゴーレムに」


 ゴーレムが街を食らい成長している。


「隊長、ゴーレムってなんですか」


 パイロが訊いた。


「神話に出てくる岩の巨人です。わたしも詳しくは知りません。さっき隊員がそう呼んだので合わせているだけです」

「こんなもんどうしろってんだ」


 隊員が怖気づく。


「隊長、どうしますか」


 とパイロは指示を仰ぐ。


 いまや焼却隊は腐敗を焼却する自由意志の集団。

 市民の救助を目的としていない。

 しかしそんなことを言っている場合ではない。


「生存者の避難を優先してください。ゴーレムはわたしとパイロでやります」

「え、おれですか?」


 ビアンカは刀を抜いた。

 飛び掛かり、ゴーレムの足へ振り下ろしてみる。

 一度目で効果なしと判断できた。

 刃が通らない。

 パイロが続くが同じ結果に終わる。


「剣では駄目ですね。弾かれます」

「どうしますか」


 砂煙で呼吸がしづらい。


 ビアンカが片手に小さな爆弾を持っていた。

 パイロが気づいて頷く。

 何をするのか理解した。


 ビアンカがゴーレムの足へそれを放り投げた。

 接触と同時に爆発が起きる。

 広場跡に鳴り響いた。

 視界がさらに煙に包まれる。

 

 煙からゴーレムの一歩が飛び出した。

 ビアンカへつま先が接触。

 だが瞬時に、女王の料理人の動きで退避する。


「大丈夫ですか」

「あの程度の爆弾では駄目ですね。もっと大きいのが必要です」

「このゴーレム、全然攻撃してきません。おれたちに気づいてないみたいだ」

「そうですね。ただ歩いているだけのように見えます」


 二人は遥か上空を見上げた。

 ゴーレムの鎖骨辺りで青い電撃が散っている。

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