第5話 あっという間に地球到着!

 遠い星への旅立ち、それなりのセレモニーがあると勝手に思っていたアエルだったが、現実は父が一人でレンタル予約していたハイパービークルを取りに行き、必要な物を積み込み、家族が乗り込み出発するだけのものだった。ただ一人見送ってくれたのは、地球への旅立ちを確認するために来ていたカズー星統治協議会の宇宙旅行管理部の担当者だけだった。ハイパービークルの操縦はと言うと、行き先を言葉で言えば後は全て自動という実に簡単なものだった。父がハイパービークルのフロントウィンドウに向かって「スペースポジション0795に向けて発進」と言うとハイパービークルはゆっくり地上から浮き上がり、スピードを上げながらやがて大気圏外に到達した。0795は宇宙旅行管理部の担当者から教えられた、カズー星からの移住者が住む星だけに与えられた地球のスペースポジションNo.だった。大気圏外に出たハイパービークルは一旦動きを止めると、アエル達家族に「これより惑星地球の衛星、月の、地球から見て裏側へワープします」という音声を流した。父が「地球人のレーダーに映らないようにするためだな」と呟くとほぼ同時に、フロントウィンドウの正面に見えていた幾多の星が消え、すぐに別の星達が現れた。そして下部まで大きく開いたフロントウィンドウからビークルの下方を見るとただ真っ暗だった。アエルと一緒にそれを見ていた父が「月の上空に着いたってことか、一瞬だったな」と言った。ワープは最先端テクノロジーで有り、その技術が開発されたと聞くまでファンタジーの世界で超能力者だけが起こせるとんでもない超常現象だと思っていたアエルは、その時どんなことが起きどんな事象が見られるのか大きな期待をしていた。それだけにあっけに取られしばらく口が開いたままだった。それに対し父はワープがどんなものか事前に情報を入れていたようで意外という表情をせず、ただこれから先に起こるだろう想定外のことに期待して、興奮気味に「いよいよダウンサイズして地球観光だ」と言った。その時ハイパービークルから「これから先はパッセンジャーオリジナルドライブになります。当車は移動の指示が無い限り待機状態となります。移動が必要になりましたらその都度行き先または、運転内容を指示してください」という音声が流れ、フロントウィンドウに地球の全体像が映し出された。青いその星を見た父が「本当に綺麗な星だな」と呟いた後、アエルに「行きたい所があるんだよな」と言った。軽くうなずいたアエルがフロントウィンドウに向かって「ゆっくり自転させて」と言うと、地球の映像がゆっくり回りだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

惑星カズーから地球へ旅してみたら…恋 奈平京和 @husparrow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ