本作は、魔法使いの高校生・宮代昴が、魔法を使ったことをきっかけに幼い女の子の姿になってしまうところから始まる、独特のテンポとユーモアが印象的な物語です。冒頭の星への願いをめぐる言葉遊びから、目覚めた昴が自分の身体の異変に気づくまで、軽妙な語り口が続きます。特に、窓ガラスに映った自分の姿を見て思わず叫ぶ場面は、本人の動揺と、声まで幼い女の子になってしまった衝撃が伝わってきて、コミカルでした。一方で、宮代家に伝わる「読み」と「顕し」という二つの魔法の説明からは、この世界に独自の魔法体系が存在することもわかり、昴が単に不思議な現象に巻き込まれたのではなく、自分の選択によって現在の状況を招いたのだという事情が見えてきます。
昴の人物像も印象に残りました。高校二年生でありながら、魔法使いとしての責任を理解し、母親や師匠の教えを思い返しながら、起きてしまったことを自分で引き受けようとしています。しかし、その一方で幼馴染のことを思い出して頬を叩いたり、スマートフォンがないことに落胆したりと、年相応の反応も見せます。魔法の仕組みを理屈っぽく説明する場面と、本人の率直なツッコミが交互に現れるため、設定の説明にも昴の個性が表れていました。文章中の英語やカタカナ、独特の表記、勢いのある語り口も作品の特徴となっており、一般的な転生・変身ものとは少し違った賑やかな雰囲気を生み出しています。
そして、物語の空気が大きく変わるのが、見知らぬ女性から「レベッカちゃん」と呼びかけられる場面です。昴は自分が幼い女の子の姿になったことには気づいていますが、その身体の持ち主らしい少女が、宮代家と何らかの関係を持っていることまでは把握していません。さらに、東京の宮代家での話や、両親を探して家出を繰り返す少女の事情、滞在中は別の名前を名乗るよう求められる展開によって、単なる身体の変化だけでは説明できない謎が浮かび上がります。軽快なコメディーとして始まりながら、終盤では昴自身も知らない少女の背景へと関心が移り、先の読めない展開になっている点が印象的でした。
魔法が社会に組み込まれた近未来を舞台に、時間遡行、身体の異変、魔法使いの家系、アプリによる魔力解析など、独自要素が濃密に詰め込まれた作品です。序盤から語り口にかなり個性があり、主人公の思考が勢いよく流れ込んでくるため、合う人には一気に刺さるタイプだと感じました。
特に、軽妙な一人称の裏で「自分は何者なのか」「この身体は誰のものなのか」という不穏さがじわじわ広がっていく構成が魅力的です。魔法と現代技術が混ざった世界観も面白く、あなまほアプリなどの小道具に説得力があります。
クセ強めの文体、近未来魔法、謎多き導入が好きな方におすすめです。