第30話 VSサイクロプス③ ユニークスキル

———


 私は迷っていた。あのモンスターに立ち向かうかどうか、と。

 剣聖という圧倒的な強さを誇る天職の自分であれば、あのあらゆる攻撃でダメージを受けていないサイクロプスというモンスターにもダメージを与えられるかもしれない。

 だがそれで立ち向かって、ヤツの攻撃にやられてしまったら? 私はスピードはあれど、見上智也のように攻撃を上手く受け流す剣技は持っていない。私の攻撃が通用しなかった時、私はヤツから放たれる反撃を避けられなかった場合、半端な傷では済まないだろう。それこそ死に繋がるほどの、いわゆる致命傷にもなりうるかもしれない。それを想像したとき、私は()と、そんな感情に心を支配されてしまいそうになる。

 今まで私は剣聖のスキルとステータスにものを言わせモンスターにも人間にも全勝。負けたことなどなかった。どころかマトモにダメージを負ってすらいなかったかもしれない。

 そんな私はこのイベントで見上智也に、人生において初めての敗北を味合わされた。それで芽生えたのだ。負けて傷を負うことに対する怖いという感情が。

 

 「グギュルオァオオオ!!」

 今もトレサに腕を振って攻撃を続けるサイクロプスのそんな雄叫び。これを聞いただけで私の身体はぶるんと震える。

 (動かないと……)

 そのうえで私の頭はそう考える。

 (もうほとんど傷は治ってるのに……今なら戦えるのに。なのに……)

 

 普段なら自由に動かせるはずの身体が、全身縄に縛られているのかというほどに動かせない。まるで金縛りだ。

 私の身体は恐怖という感情に縛られてしまっている。

 

 (この恐怖を振り払わないと。恐怖から逃れないと。そうしないと私は戦えない。私は戦わなければいけないのに……! 

 どうすれば、何があれば私はこれを払うことが……)

 くるくると、ひたすらに自身の頭の中を、思考を回し続ける。どうにかして答えを見つけようと、回し続ける。

 (ダメだ。今のままの私では——)

 瞬間、私の頭に答えが突然現れた。針を刺されたかのように私の頭は刺激を受ける。

 (——変わればいい。今のままの私から変わる。この敗北をきっかけに変わるんだ。

 初めての敗北。これにどう思えばいい……敗北が怖い? いや、負けて悔しいと思えッ! 次は負けない力を欲しろッ!!)

 

 瞬間、視界に映る。

 『ユニークスキル 超加速』

 

 (ユニーク……スキル、超加速……!)

 “ユニークスキル” それは一部の人しか手にすることのできないモノ。それに該当するスキルは世界で一つだけ。つまりこの超加速というスキルは世界で私しか持っていないスキルだ。

 なぜこれが私に与えられたのかはわからない。だが私はこれが、私の『負けて悔しい 次は負けない力が欲しい』。そんな感情に呼応して与えられたと考えた。


 ともかくだ。私はこのスキルを手にした瞬間に剣を強く握りしめ、そして立ち上がるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

隔日 22:00 予定は変更される可能性があります

劣化天職で最強 春の天変地異 @haru-tenpeenthi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画