第25話 努力の力
そのスキルを使用したセツナは、離れた俺との距離を一気に詰めてくる。
『
そのスキルは横切りから始まり、そのまま剣を縦、横、縦と7回繰り返し振って攻撃をするスキル。
このスキルの恐ろしいところは、振るたびにパワー爆発を超える威力の爆発が斬り終わりの位置に起こること。
それのせいでもし横切りをその場で屈んだりして避けれたとしても、直後に発生する爆発に巻き込まれてダメージを受けてしまうところだ。
どころか、もし剣を避けれなかったとしたら剣と爆発の両方をその身で受けることになる。そうなったら同じレベル30で、俺のように防御力が低いと……いや、そこそこの防御力を持つ剣士とかですら骨が一本はポキッとなっちゃうだろう。
セツナは瞬く間に俺にその剣が届く距離まで近づいて、剣を振るう。
「はあああ!」
俺は振るわれた横切りを屈みながら前方に飛び込み、セツナの背後に回ることでそれを回避する。
直後、ドーン! という音とともに爆発が起こった。が、前方に飛び込んだ俺には寸前で当たらない。
すぐに俺は剣を引き抜き、それをセツナに振るう。スキルの次の動き、“縦切り”をするためにこちらへ振り向いて剣を構えているセツナの身体に俺の剣は命中する。
「ぐ、ぅ!」
俺の剣をもろにくらったセツナは姿勢を崩し、小さく呻き声をあげる。
「こ、このスキルまで避けられるなんて……」
俺の桜花爆連斬の対策は前方に飛び込み、相手の背後に回ること。
桜花爆連斬は確かに強力だ。だが、2回目の剣の振り方が縦切りなせいで、後方で低い姿勢をしている相手に対して剣を当てるには、まず振り向く必要がある。そのうえスキルの動きは上から剣を振り下ろす縦切りであるため、低い姿勢の相手に剣が届くのは遅い。
つまり、どうしても剣を当てるまでに時間がかかってしまうのだ。
そのおかげでこちらは剣を引き抜き、それを振るうことができる。その姿勢を崩すことができる。
最初の横切りを前方に飛びこんで回避するのはちょっと難しいが、回数をこなし、そのスキルの剣の動きを予測、見切ることができればわりと成功するようになる。
(つまり何度も父にこのスキルを見せられ、そしてうたれてきた俺ならば楽勝だ!)
「——っ! 桜花爆連斬!」
セツナは一度回避されたそのスキルをまたもや発動する。
俺は先程と同じように横切りをかわし、剣を叩き込む。
「かあ゛っ……」
またもセツナは姿勢を崩され、よろめく。
そんな彼女は立ち上がりながら俺に問う。
「何であなたは避けられるの……?」
「や、別にさっきも言ったが剣聖のスキルくらいどんなものか知っているってだけだよ」
「それだけで避けれる訳が……」
(まあそれだけじゃないしな)
俺は彼女の言葉に心の中でそう呟く。
彼女はさらに続けて言葉を紡ぐ。
「それにあなた、攻撃に反応する速度と、反応してから対処するまでのスピードがあまりにも速すぎる……。一体どんなスキルを使って——」
「スキルじゃない」
彼女の言葉を遮るように俺はそう言った。
そんな俺の言葉に彼女は「えっ……」と、声を漏らす。
「俺のそれはスキルじゃなく、努力で身につけたものだ」
「ど、努力……?」
俺は自身の今までのほとんどを捧げた剣の訓練の記憶を思い返しながら言った。
(人間大体80程度は事故がなければ生きるらしい。となるとたった5年……とは感じるが、今の俺にはその5年が人生のほとんどだ。
それを賭けて手に入れた力を、スキルの力なんてことには絶対にさせたくはない)
俺の言葉を聞いたセツナはどこか複雑そうな表情をしていた。
「……そろそろ戦闘に戻ってもいいかな。これ以上俺に答えられることはないからさ」
「わ、わかった」
俺の言葉に応え、剣を構え直す彼女を見た俺はその遠距離からスキルを放つ。
「……これこそが俺のスキルだ。ねんりき!」
(あんなこと言った手前、スキルなしで自分の力だけでやろうと思ったが剣聖相手に勝つにはそう手を抜いてる余裕もないな)
「くっ、クロスセイバー!」
セツナはそれに合わせるようにクロスセイバーで十字を進ませる。と、同時に脚を動かして彼女自身もそれを追うように走り出す。
当然俺のねんりきはその斬撃に掻き消され、迫ってくる斬撃を俺は屈んで回避する。が、セツナはそんな俺との距離を縮めて剣を振るった。
俺は瞬時にセツナが振るう剣が滑る坂道を剣で作り上げ、受け流す。
「……っ、また……!」
俺はその低い姿勢のまま脚を地面と平行に勢いよく振って、今、彼女の軸となっているであろう右脚を強く蹴る。
「あ゛……!?」
モロにそれを受けた彼女は姿勢を維持できずにその場で崩れる。
「サイコクラッシュ! ねんりき!」
そんな彼女に迫るのは俺の放つねんりき。姿勢を戻そうとしていた彼女は、咄嗟にそのまま剣でスキルを放とうとする。
「させるかよっ!」
「なあっ……!」
その剣を持つ手を俺は再度蹴り上げることでそれを止めた。
迫るねんりきを前に彼女はスキルを撃てず、後退を選んだ。
が、退く先にあるのはすでに置かれていた落とし穴、サイコクラッシュだ。そう、俺はこの一連の流れを全て予測していた。
タイミングも完璧。発動から充分な時間を経たそれは彼女が範囲に入った瞬間、そこに爆発を引き起こした。
「い゛、あぁ゛ぁ!!」
(ほんとは手を蹴ったところで剣を引き離せてたら良かったけどな)
「ねんりき!」
まだ煙が残るそこに向けて、再度使用可能となったそのスキルを放つ。
「で、デュアルウェーブッ!!」
桃色の波は蒼き二重の波に飲み込まれ、そこから消える。
が、流れる波が進む方向を外的要因なしに変えることなんてない。避けることは容易だ。俺はそれをサイドに足を進めて回避する。
そしてそのまま煙が晴れて姿が見えた、血を流す彼女の背後まで俺は移動する。
「——っぅ! はあ゛!!」
その場で立ち上がりながら剣を動かす彼女だが、その剣はやはり俺の剣に受け流される。
「ぐ、うああ゛!!」
彼女はそのままの姿勢で、剣聖の高い“ステータス”の力で無理やり瞬時に無数の斬撃を俺に襲わせる。
「くっ、はっ——!」
あたりに突風を巻き起こす勢いの剣によって生み出される大量の斬撃。そのほとんどを俺は自身の剣を扱う“技術”によって受け流す。
「——つあっ」
その光景を見たセツナは上下の歯を合わせながらそんな声をか細く漏らす。
(やっぱり……なんて重く、速い剣だ。なるべく上手く受け流したつもりなのに、手が痺れてしっかりと動かない。受け流しきれなかった剣を受けた部分の骨には多分ひびが入ってる。
……はあ、やっぱり剣聖は強いな——)
俺はそう思いながら痺れる手を動かし、剣をセツナに振りかぶる。その地面に座り込んだ彼女に。
「ははっ……今回は俺の勝ちみたいだな」
そう言って俺はその彼女に剣を下ろすのだった。
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