第21話 準決勝 バリ硬の男
そうして会場に立った俺の目の前に立っている相手は、俺の持つ剣の数倍の大きさがある大きな剣を背負ったガタイのいいやつだった。
「……お前が俺の相手か。はあ、悪いがお前のような小柄なやつ、もといチビじゃあ俺が手加減しても骨が折れちまう。とっととここから立ち去って俺に勝ちを譲った方がいい」
目の前のそいつは笑みを浮かべながらまさに小物のようなセリフを俺に吐いてきやがった。
こんなセリフを吐かれては言い返さないという選択肢はないだろう。理由は簡単で、ムカつくからだ。
「悪いが、勝ちを譲るなんてことをするつもりはない。むしろ俺がお前を圧倒してその自信を消し去ってやるぜ」
「へえ……なかなか生意気なことを言うガキじゃねえか。わかった。それじゃあ望み通りボコボコにしてやる。俺の名はドーリス。お前のようなガキはママの元で泣き喚く準備をしておきな。もっともお前が泣き喚くことができる状態で帰れたらの話だがなァッ!」
「そうか。一応礼儀だから名乗り返しておく。俺は智也だ。そんでまあ、俺はボコボコにされるつもりはないし、そもそも俺にはもう泣き喚く俺を受け入れてくれる母親はいないんだよ」
そんな掛け合いの後、試合が始まった。
「ねんりき!」
とりあえず俺は目の前の巨大に向かってそのスキルを放つ。
その波は背負った大剣に手を置いていたそいつに直撃する。
「……いてぇなあ。だけどまあ、俺にあんなこと言ったわりにはその程度なのか。所詮お前は俺にとってはムシケラ同然。身の程弁えてとっとと土下座でもして降参した方がいい」
なんだかよくわからないことをほざいているが、実際俺のねんりきをくらってもこいつはピンピンのようだ。
それに、戦闘中にこれだけペチャクチャ無駄事を喋っているんだ。よっぽど自分に自信があるのだろう。
自信がある、ということはそれだけ勝利を積み重ねている可能性がある。実際こいつは準決勝まできているのだ。
油断してはならない相手のようだ。
「降参はしねぇようだなァ! ンならこいつをくらって死んじまえェ! ストロングスラッシュぅっ!」
そんな言葉をそいつが口にすると、彼の持つ大剣の刀身と同等の大きさの斬撃が俺に向かって地面を破壊するほどの勢いで飛んでくる。
ただ、すごい勢いと言ってもそれは縦切りによって放たれたため、横にはそこまでの大きさはない。故、俺が軽く身を逸らすだけで避けられる程度の斬撃だ。
「はっ……どうした? お前は大口叩いといて当たらない攻撃を撃つようなバカなのか?」
目の前のそいつは俺のことを何度も煽ってきたのだ。俺もちょっとは煽ってもいいだろう。そんな考えで俺は軽ーく煽ったのだが
「——ッ!! お前、ちょっと調子にのりすぎだ! たった一撃をかわした程度で調子のってんじゃあねぇ!」
目の前のそいつの顔は真っ赤に染まり、そいつはこんな怒号を俺に吐き出すのだった。
どうやら目の前のそいつは恐ろしく煽り耐性というものが低かったらしい。ちょっと煽っただけでカンッカンになって怒り出しやがった。
(それはそれとして、ねんりきはあまり効かなかったしな。サイコブレイクなら効くかな。当たらないかもしれないけど)
「サイコブレイク!」
そうしててっきり当たらない物だと思って俺はそれを打ったのだが、あいつは簡単にサイコブレイクの爆発に飲み込まれた。
「えっ!?」
当たらない物だと思っていたものが当たったと言う事実によって俺の口からはそんな素っ頓狂な声が出てしまった。
ただ、爆発によって巻き起こった煙が晴れかけたころに見えたそいつのシルエットは、さっきまでと変わらない堂々とした立ち姿だった。
「はッ!! その程度かあッ!? お前の攻撃は回避するまでもねえなあ!」
(——っ! マジかよ! サイコクラッシュをモロにくらってこれか! さっきのトレサだって効いてはいなかったが、それはスキルあってのものだった。だが今、あいつはそれを使ったようには見えなかった。
つまりあいつは己の肉体でそれを受けて、あんなにピンピンしてるワケだ。はあ、痩せ我慢であってくれ……)
そう祈っている俺の元に、ドスッドスッという重たい足音が近づいてくる。ドーリスが大剣を構えて俺に走ってきていたのだ。
「サイコエンチャント!」
俺はそれを迎え打つために剣にサイコパワーを付与する。
「おらあ!!」
俺との距離を充分に縮めたドーリスは大剣を振り下ろした。
俺は大剣を斜め前に飛んで回避し、そのまま剣をそいつの足に叩き込む。あまりにも隙だらけな為、俺はさらにそこに向かって何度か剣を振るう。
「グぅ……!」
6発ほど叩き込んだ頃に、微かだがうめき声のようなものが聞こえた。そんな声の主は俺に打たれていた足を動かし、そのまま俺に向けてそれを振り上げる。俺はその攻撃を後方に飛び、避けた。が避けた先には上から大剣が迫ってきていた。
「コイツで死んじまえッ!」
「なっ……!」
それを認識した時には普段の速度じゃ回避ができなかった。だからこそ俺は自己暗示でスピードを高め、それを回避する。
「あっぶねえ……」
「チッ! 逃げ足は早えみてぇじゃねえか。だがお前がどんだけ素早かったって俺には勝てねぇよォ!」
(確かにこのままじゃ勝てるかが怪しくなってきた。肉体の力で俺のスキルを受け切っているそいつにはトレサの時のような方法を使っても大ダメージを与えられるかは怪しい。
いや、だがさっき攻撃したときにはヤツのうめき声のようなものが聞こえた。ということはダメージはしっかり入っているワケだ。
つまりこいつがサイコブレイクをくらって余裕な顔をしていたのはただのやせ我慢か。それともサイコブレイクを受けても平気な防御力があるかだ。あいつの天職さえわかればどうにか対策を立てられるかも知れないんだけどな。はあ……ちょっと聞いてみるか)
「く、くうー、このままじゃあ俺はお前に勝てそうにないぞ。な、なあ、ちょっと天職だけでもどんなものか教えてくれないか?」
「はッ! いいだろう。このままじゃあ俺が面白い戦いができなさそうだからな。ホントはお前にさっさと負けを認めてもらって決勝でもっと面白え戦いがしたいんだが、お前は降参しなさそうだ。そういう生意気な奴だってわかっちまった」
男は俺の、自分を追い込むだけの提案を承諾した。そんな男を俺は(マジか。バカだろこいつ)と思ってしまったのだった。
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