第19話 忘れていた感覚
ドンッ
瞬間、そんな音と共に激しい衝撃が周辺を襲った。
それを受けた俺は一瞬軽く怯む。すぐに体制を戻した時、俺の目の前にはトレサ・ダントカーの拳があった。
「はっ……?」
その速度に困惑し、声を吐いていた頃には俺の顔面に拳がめり込んでいた。
「ぐっ……ぶぅ!!」
直後、俺の身体は大きく後方に吹き飛び、血を吐き散らす。
(……速い、うえに重い。わりと真面目に構えてたのに反応できなかった。ひとまずは……)
「っ……! 自己暗示ッ!」
俺は立ち上がりながら自身のスピードを高める。
「さすがです。アレを受けて立ち上がるとは」
「ま、まだ一撃だけだ。沈んでられるかよ」
「尊敬します、その心意気。しかし私もこれからは一切の加減なしの本気で行きます!」
その言葉と同時に先ほどのような爆風が巻き起こった。
(地面を蹴るだけでこの衝撃。このレベルの人間にできる現象じゃない。そりゃあ父のような高レベルなヤツならできるかもしれないが……レベル30までのヤツにできる芸ではない)
そうして俺が思考していると、やはり目の前に迫っているのは彼の拳だ。
しかし今回はただそれをただで受けるつもりはない。
俺は自己暗示で高まったスピードでそれを寸前で回避する。
「サイコエンチャント!」
直後に剣を引き抜き、サイコパワーを纏わせた。
「速いっ……!」
「だあっ!!」
その剣はトレサの身体を斬る。が、
(おいおい。そんなのありかよ?)
俺の剣はトレサの光を纏う肉体に受け止められてしまっていた。
その間に彼の膝が動き出していて、それは俺の腹にめり込んだ。
「ぐぶっゔ……っ!」
膝に持ち上げられた身体に対してさらなる追撃が行われる。
「が、はぁ゛ッ!!」
宙に浮かぶ俺に対してトレサの拳が連続で三撃、撃ち込まれた。
(……ああ、頭がフラフラする。あんな威力のもんを受けといて身体が歪んでないのが不思議だなぁ……。とはいえ骨が少しいったな。こりゃもう厳し……いや、手脚に影響はない。まだ動ける)
そうして俺はペッと口内に溜まった血を吐き出し、立ち上がる。
「賞金は……渡してたまるかよッ!」
俺の身体はまだまだ動けるはずだ。いや、動く。動くはずのものを俺が動かしていなかっただけなんだ。
トレサは温存をせず全力で俺と戦っているのにも関わらず俺が全力で立ち向かわないでどうするっ!
「変わりましたね、眼が。それに、その圧倒的な気迫、覇気。貴方はまだまだ温存していたわけですか」
そんな俺の姿を見てトレサは口にした。
「いや、取り戻したんだ。この久々の感覚でな」
今思えば俺は父さんとの訓練以外でここまでの重傷を負いはしていなかった。あの巨大なモンスターとの戦闘でさえ、たったの一本の骨すら折れていなかった。
父さんの剣には何本も折られていたのにだ。
つまり今の今まで俺は、俺の剣は訓練でのベストを出しきれていなかった。出そうともしていなかった。俺にはまだ奢りがあったのだ。
「とはいえまだ私の身体と貴方の身体には大きな差があります。そうです! 私は貴方に勝たせていただきますっ!」
瞬間、彼は踏み込んだ。
「だあッ!!」
トレサの速度は速い。きっと自己暗示のスピード上昇込みでさえ追いつけるか怪しいところだろう。だが父さんのスピードはそれ以上だ。なのに俺はそいつと剣で打ち合っていた。
それができたのはなぜか。
予測だ。父さんの動きを常に予測し続け、動く。
それと同じことをすれば良い。
まあきっと父さんの動きを予測できていたのは何度も打ち合って動きのパターンを覚えていたからだろうが、そこはまあ俺の努力次第だな。それに今はあの時にはないスキルとか、そういった選択肢があるわけだ。どうとでもなるさ。
そんなことを考えるうちにトレサの拳は俺に迫っている。
(まずはしゃがみ、トレサの拳を下方向に誘導する)
俺が思考通りの行動をすると、彼も俺の思考通りに身体を動かしてくれる。
直後に俺は後方へ跳び、その拳を回避する。
「避けられた……!」
(となると次は……ああ、そうだ。飛び込んでくるよなァ!)
彼がそれを実行に移す前に、俺はそれを予測して対処の構えを取る。
「飛び込みなんて……対処は簡単だ!」
「なあっ……!?」
飛び込んできたそいつの拳を受けぬよう、横にズレ、彼の拳を流し、そんな隙をついて攻撃する。
「だあっ!」
サイコパワーを纏う剣を彼に向かって全力で振るう。が、やはり彼の身体にそれは受け止められる。それがわかった瞬間、すぐに俺は剣を引いて、距離を離す。
「ねんりき!」
離れた彼にその波を襲わせるが、それですら彼の肉体に効果はないようだ。
「……とても素晴らしい身のこなしですが、あいにく貴方の攻撃は私には通じないみたいですね」
「そうみたいだな。だが必ず突破する手段はあるはずだ。それを見つけてみせるさ」
(そうは言ったが、一体あれの弱点はなんなのだろうか)
トレサの猛攻を全て回避しながら俺はその肉体に傷を負わせる手段を考える。
(俺と彼にレベルの差は大して存在しない。一応、筋トレとかで肉体を強くすることはできるけど、彼の年齢は俺と同じくらいだ。ぶっちゃけ、この年齢にして俺ほど鍛えてるやつなんてそういないだろう。ということは彼の強靭な肉体は、彼のスキルによって作り上げられたものだ。
スキルであれば耐え凌げばいつかは効果が消えるだろう。発動してから永続のスキルなんてあるわけな……いや、そう言えばなんかいつかの頃に父さんか母さんか、誰か忘れたけどパッシブスキルなるものがあるとか言ってたような……。まあ大丈夫か。レベル30の俺はそんなの手に入れていないし、彼もきっと手に入れられていないだろう。きっと……。
そう言うわけでひたすら耐えていればいつかはあのスキルの効果は消える。だがそれじゃあ俺が不利だ。いつか消えるものを待ち続けるだけでは)
それにすでに俺の身体は骨が少しやられている。いつ限界がきてもおかしくはない。
(であれば別の策を練るべきだ。あらゆる観点から考えろ。トレサの挙動、発言、一挙手一投足に答えは潜んでいるはずだ)
そして俺は考えに考え、そしてある一つの憶測を練り上げた。
直後、俺は攻めに転じる。全力で大地を蹴り、走り出す。
そんな俺を迎え撃つようにトレサは拳を振るうが、その全てを俺は予測し、回避する。
「ぐっ……何をして!」
「悪いな。きっと死にはしないだろうが……弱い部分に激痛が走る覚悟だけはしていてくれ。自己暗示ッ!!」
俺は自身の力をそのスキルで大幅に上昇させる。
そして俺は……そいつを地面に押さえつけた。
「ぐっ、う……! これくら」
「口を開けたな?」
「いぃ゛っ!?」
そのまま俺はそいつを全力で押さえつけながら口の中に右手を突っ込んでいく。
「お前のそのスキルはどうやら身体の内部には作用しないらしいな。……なんというか、めちゃくちゃ強い武具を装備するような、そんな感じらしい。とどのつまりそれが作用しない部分に直接ダメージを与えちまえばいいんだ」
「にゃ、にゃじぇそりぇを……ぐ、がが……!!」
「そのスキルの名前だ。『全身武装』。武装ってのは武具を装備することだ。だったらさっき言ったように、ただその光を装備しているだけなんじゃないかって思ってな……!」
そうして俺は口の中の、喉の奥に向かってスキルを発動していく。
「まずはねんりきッ!!」
「が、あ゛ぁ!!」
それによってそいつの口内に鮮血が飛び散る。
「あとはお前の……そうだな。口蓋垂で良いか。サイコエンチャント」
「あ゛、あにをッ……!!」
「大丈夫だとは思うが……死ぬなよ? パワー爆発ッ!」
瞬間、そいつの口蓋垂が纏ったサイコパワーがそいつの口内で爆発を引き起こした。
「が、あぁ……!」
直後、トレサは白目を剥いて意識を失った。
「意識は失ったみたいだけど、念のためもう一発入れておくか。ちょうど再使用できるようになったしな。ねんりき!」
「……!」
そうして俺はその戦いに勝利するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます