第9話 山登り、からの卵の発見

 「プライドってのはないの?」

 目の前の女はどこか引いたような顔をしながら俺にそんな言葉を吐く。

 「失礼なやつだな。折角護衛になってやると言っているのに」

 俺がそう言うと目の前の女は呆れたように返事をする。

 「まあいいや。時間がもったいないし承諾ってことならとっとと行こう。今から大丈夫だよね?」

 そう言ってその女はギルドの出口に体を向ける。

 「まあ、大丈夫だけどさ」

 そうして俺たちはギルドの出口をくぐり、外を歩き始めた。

 (というか俺は行き先を聞いていない。一体どこへ行くのだろうか)

 そんなことを思いながら俺はその女の背中についていくのだった。道中俺はずっと気になっていたことを聞いてみる。

 「あのさ、錬金術師ってどんな天職?」

 すると俺の前にいる女が答える。

 「え……あぁ、まあ知らないのも無理はないか。錬金術師は結構珍しい天職だから」

 「そうなんだな。まあ俺はわりと有名なものでも知らないことはあるだろうけどさ」

 結構珍しい天職ということは、いわゆる『希少な天職』の部類に含まれるタイプだろう。 「それで、錬金術師って天職は素材を組み合わせて新たな物質を生成する天職で、この天職の人はほとんど少ないからどういった天職の組み合わせで生まれてくるかは正確にはわかってない。というより突発的な、なんの脈略もなく現れるようなモノなんじゃないかな。ちなみに私の場合は加工師と魔術師の両親から生まれてきたの」

 (なるほど。俺のような劣化天職とは違うレアで希少な天職なのか。正直いって羨ましいな)

 そう俺が思っていると、リコが再度口を開いた。

 「次は私から質問していい?」

 そんな言葉が目の前から聞こえる。

 「俺も聞いたからな。なんでも聞いてくれ」

 質問に答えてもらったからには相手側の質問にも答えるのが礼儀というものだろう。俺は礼儀正しい男なのだ。

 そうしてリコ・ガラポーユがそれじゃあ、と間をおいて俺にその質問を投げかける。

 「あなたの名前って何? そのうち必要になることもあるだろうから一応聞かせて」

 そういえば俺は自分の名前を名乗っていなかった。

 「俺の名前は智也だ。見上智也」

 俺は自分の名前を口にする。

 「ふぅん。智也と呼ばせて貰ってもいい?フルネームで呼ぶと長いし、だるくてめんどくさいから」

 人の苗字をなんだと思ってる。と言いたいところだが正直俺もこの苗字に思い入れなんてない。子供を平然と追い出す両親と同じ名前なんて嫌だしな。

 「わかった。だったら俺もお前のことをフルネームじゃなくてリコと呼ばせてもらうけどいいか?」

 「わかった。というより今までフルネームで呼んだことすらないでしょうに」

 そんな事を喋りながら俺たちは道を歩く。

 

 それから一体どれほど歩いただろうか。ところどころで遭遇したスライムをねんりきで蹴散らしていたらレベルが1上がっていた。

 そんなこんなで俺たちは目的の場所についたらしい。目の前には大きな山がそびえたっていた。

 「智也、ここのどっかにあるヘルバードのタマゴがお目当ての素材」

ヘルバードとは真っ赤で血塗られたような体をする巨大な鳥のモンスターだ。巨大なモンスターとはいえタマゴをパクってそのまま逃げればいいだけの話。戦う必要はない。なんの問題もないのだ。

 「なるほど。それじゃあとっととこの山を登ってタマゴを持って帰ってしまえば30000ゴールドは俺のものとなるわけだな」

 そして俺たちはなかなかの高さのあるこの山を登り始めるのだった。


 山道はそこそこ整備されており、登るのがそこまで苦ではなかった。目の前を歩いているリコの動きにも疲れは見えない。リコは戦闘に関係するような天職ではないはずなのに。人間のステータスはレベルと天職によって変わってくる。

 例えば俺のエスパーは『防御力』や『攻撃力』が低い代わりに、エスパーや魔法使いのスキルが参照するステータス、『魔力』が高くなっている。このステータスが高ければ高いほどエスパーや魔法使いはスキルのダメージが高くなる。ちなみにエスパーの魔力のステータスは魔法使いよりも高いのだが、ステータスで上がるダメージとは別に各スキルにダメージがある。

ようするにスキルで与えられるダメージは

そのスキルが参照するステータス+スキルのダメージでエスパーよりも魔法使いの方が火力が高いのはスキルのダメージがエスパーのスキルのダメージよりも圧倒的に高いからなのだ。つまりリコの天職、錬金術師はおそらく体力が多めになっているのだろう。それとも、普段から鍛えているのかもしれない。人の体力ってのは、肉体の体力とステータスの体力の足し算みたいなものって聞いたことがあるし。


 どれくらい歩いただろうか。ついに山頂1歩手前というとこまできた。

「見えた」

そんな声を発したリコの視線の先にはお目当てのタマゴが2個か3個か、それくらいの量が置かれていた。俺は周囲を見る。親はいないようだ。ヘルバードの親は基本的に両親とも常に遠出しており、タマゴを守ることはない。巣に帰ってくるのも真夜中だけだ。しかし例外というものはよく起こるらしい。俺たちがタマゴに近づく。

 「キュルルアァ!!」

 その直後に耳がキーンとするような甲高い声が響く。と同時に俺の視界に大きな真っ赤な翼が入ってくる。

 「ねんりき!」

 瞬時に俺はスキルを発動する。

 俺のねんりきはそいつの左翼に直撃し、真っ赤な羽根があたりに舞い散る。目の前のそいつの体は軽く揺れた。

 どうやらしっかり効いているらしい。それならば全然倒すことは可能だろう。

 そんなことを考えている俺の目の前のそいつは大きな羽根をはばたかせる。その刹那そいつの顔は俺の目の前にあった。

 ドン! という鈍い音が響き、俺の体が大きく半円を描きながら吹っ飛ぶ。

 「ぐあっ!」

 タックルをかまされていたのだ。

 (く、いけない! 早く前線に戻らなければ。リコがやられてしまう!)

 「く……リコの命と俺の報酬は奪わせてたまるか!!」

 とはいえ、ここから前線にはそこそこの距離があり、簡単には戻ることができない。そこで俺はそのスキルを発動する。

 「自己暗示」

そして俺は強くその幻想を想像する。

 

 『俺のスピードは風よりも速い!』


 その力で俺はグングン前進する。風より速い……とまでは行かないが、普段の俺の数倍の速度で前進する。

 「よおし! ねんりき!」

 俺のねんりきはやつに直撃する。やつの視線が俺に向けられる。刹那やつの体が俺の視界から消えた。

 さすがは鳥で、なかなか速い。前までの俺ならば避けられない。が今の俺ならば簡単に避けられる。

 やつが追いつかない速度で俺は後ろに下がり、ねんりきを放つ。が、そいつは身を逸らして俺のねんきりをかわした。

 しかしその隙に俺は背後へと回り込んだ。当然そいつは俺の方へと体を向ける。そんな間に俺は自分の真下にサイコクラッシュを発動する。

 翼を大きくはためかしたやつの体は俺の方へとギュンギュン向かってくる。そしてやつの体はサイコクラッシュの範囲内に飛び込んだ。俺はそいつのタックルに当たる寸前に後方へジャンプする。それによって俺の体はやつのタックルをかわす。そのはずだった。

 「があ!?」

 俺の体は宙に浮いていた。俺はかわしきれずにそいつのタックルが命中していた。自己暗示の効果が切れていたのだ。


 「ちくしょう……なかなか痛いじゃないか」

 俺は立ち上がりながらそう口にする。


 俺が立ち上がった頃に、俺の背後に回ったそいつはまたもや突撃してきた。

 「ま、またそれか。だけど、一度受けたんだから対処の仕方くらいは分かってるさ!」


 そう口にした俺は少し横に移動し、そしてしゃがみ込む。ついでに剣を引き抜き、上に掲げる。

 俺はやつの翼の下に潜り込むことに成功し、それを回避した。その上掲げていた剣に突撃することになったやつはダメージを受けていた。


 それからも俺はそいつに、スキルを当てたり、剣で斬ったりと攻撃を仕掛ける。結果、俺は大きく消耗していた。

 しかしやつの体からも血が流れる。すでに真っ赤なそいつの肉体にさらに赤い液体が流れる。そいつの体にサイコクラッシュは命中していたのだ。お互い消耗し始めていたのだ。

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