劣化天職で最強
春の天変地異
第1話 天職の発現。のち、追い出し確定
この世界には『天職』というものが存在する。
この世界に生まれた全ての人間は、生後5年目に天職発現の儀式を受けて自身の天職を発現させるのだ。
天職というものはどういう仕組みかはわからないが、基本的には両親のものが遺伝したり、その二つが合わさったものが発現する。例えば父が剣士、母が魔法使いとするとその子供には魔法剣士が、父がタンク、母がヒーラーとするとその子供にはタンクか、ヒーラーか、ヒールタンクが発現するといった感じだ。
それと、たまに特別レアで希少な天職がなんの脈略もなく発現したりするらしいが、その天職はほんとに限られたものだけで、一般的な天職がそうやって出ることはない。ちなみにそんな天職は特別何かに秀でた、ハズレとなることは絶対にないようなものらしい。
そしてこの俺、『見上智也』は父母ともに剣聖とよばれる、剣を扱う天職の中でも最上位の天職をもつ父母の元に生まれた。つまり俺も遺伝によって剣聖か、もしかしたらその二つがかけ合わさったさらなる強さを持つ剣を扱う天職となる、かもしれないがそれはほとんどないだろう。そんな感じで俺は産まれてからは日々強き剣聖となるための、剣の訓練を両親によって積まされていた。
そして今日、俺は5歳となる。つまり天職が発現する。俺はこの天職発現の儀式で剣聖か、もしかしたらそれ以上か、極稀の確率で希少でレアな天職かのどれかが発現するのだ。
俺は剣聖2人のもとに生まれた。最上位の天職を持つ夫婦。その子供である俺の天職発現の儀式にはたくさんのギャラリーが集まる。この街の大半の人が集まっているといってもいい。
「行ってこい! 智也」
そう父が声を聞いて俺は儀式を受ける場へと足を運ぶ。
(俺は今からここで剣聖となるのか)
そんなことを考えている俺に、周りからの期待の眼差しが集まる。直後、俺の目の前に立つ男性が口を開いた。
「それでは、行わせていただきます」
その男性は儀式を行う、いわゆるその道の専門家で、彼がそう語ると俺の身体は眩い、天から降る光に包まれる。
そして、俺の天職は発現した。
瞬間、ギャラリーの顔が変わる。と同時にざわざわと声が立ち始める。期待と尊敬と、そのようなもので溢れていたギャラリーの眼差しが混乱、軽蔑、さまざまな感情がこもった眼差しに変わり、俺に集まる。そしてその全てがここの空気を暗く、変化させてゆく。
そんな空気をやや変えたのは俺の父だった。
「っ! お前、その天職はいったいなんだッ!!」
周辺にまんべんなく届くほどの怒号だった。その言葉に圧倒された周囲の人々はシーンと、一斉に口を塞ぐ。
「お前の、お前の天職は一体……なぜエスパーなんだ!?」
そう、父の言葉の通り、俺の天職は剣聖ではなく、『エスパー』だったのだ。エスパーという天職は、ハズレと言われる部類の天職だった。ついでに希少でもない。
この天職は戦闘向けの天職であり、遠距離から様々な手段で攻撃をするタイプの天職なのだが、この天職がハズレと言われる理由の一つに魔法使いの存在がある。エスパーは同じ遠距離から攻撃する天職の魔法使いの"完全劣化"と言われている天職なのだ。
世の中に魔法使いは多くいる。エスパーの4倍はいるだろう。そんな天職の完全劣化なのだ。エスパーは。ただの劣化なだけじゃここまでハズレと言われることはなかっただろう。だが世の中にたくさんいる魔法使いの劣化となれば話は別なのだ。
「お、俺にだって……そんなのわからない!」
俺は泣き声が混ざったような怒号で言い返す。
俺は剣聖になるべくして生まれて、人生ずっと、辛い剣の訓練をしていた。それが全て無駄となった。俺の心はもうぐちゃぐちゃだ。
そんな俺に父が落ち着いた、けれどもどこか怒りの混じったような声で俺にその言葉を紡ぐ。
「……お前は我が家の恥晒しだ。最低限生活をするための金や武器はやる。明日の朝には家をでていけ」
思わず言葉が俺の口から漏れた。
「ふざけるな!勝手に俺の天職を決めつけて生まれてからずっと訓練をさせて、そしてハズレ天職だったら家からでていけ?そんな話があるか!」
自分でもおかしなことを言っていることはわかっている。なぜなら俺の天職は両親が剣聖であるから剣聖となるはずだったのだ。父や母だって勝手に決めつけていたわけではない。法則に則ってそう考えていただけだ。たけど俺はその怒りを抑えることはできず、言葉を吐き出す。
しかし父はそんな俺の言葉を無視をし、家へと入って行ったのだった。
俺はその場で、今までの訓練が無駄になったという悔しさと、ずっと支えてくれていた父にこうも簡単に見限られた悲しさで、長いあいだ泣いた。人の目も気にする事なく。そしてようやく落ち着いた頃に家へと入った。そのまま自分の部屋へ入るとそこには1ヶ月ほど安めの宿に泊まれるほどの金貨と鉄の剣が置いてあった。
その後俺は母の元へ尋ねた。転職がエスパーとなってしまった、言ってしまえば落ちこぼれた俺を肯定して欲しかった。しかし投げかけられた言葉は辛辣であった。「価値なし」だの「金を無駄にした」だの、色々と罵倒をくらったが話を要約すると「お前のような落ちこぼれが住まう場所はここにはない。早く出て行ってくれ」だそうだ。
その夜俺は家を出る準備をした。明日、早朝にここを出るのだ。最低限の服……といってもなんの特徴もない長袖のシャツに、こちらもなんの特徴ない長ズボン。そしてブーツ。それくらいしか俺の服はない。
あとは……特に用意するものもない。
そうして準備を終えた俺は、明日を迎えるためベットに上がり、そこでまたも涙を流して枕を濡らしたのだった。
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