プレゼント - 6
「俊彦、決まったのか?じゃあ、早速教えてくれよ。そろそろ昼だし、腹減ってきた」
すでにプレゼント案を出し終えた春ちゃんは、余裕そうに言った。
「ちょっと春馬、自分勝手なこと言わないでよね。こんなやつほっといていいから、俊彦のプレゼント、教えて」
二人のやりとりを微笑ましく思いつつ、僕は二人を目的のグッズがある棚まで連れて行った。
その棚から、僕はグッズをひとつ手に取る。
「僕が選んだのはこれ、マフラー」
キャラクターのシルエットがデザインされたマフラーを手に、僕は言った。
二人は微妙な顔つきになった。
その理由はよく分かる。僕も同じ理由で、これを選ぶのを躊躇った。
「二人が考えてることは分かるけど、とりあえず理由を話していいかな?」
「うん、聞かせて」
天夏ちゃんの言葉に同意するように、春ちゃんも頷く。
「僕がマフラーを選んだ理由は、去年の秋のことがあったからなんだ。天夏ちゃん、覚えてる?秋ごろに咲良ちゃんが早退しちゃったときのこと」
天夏ちゃんは頷いた。
「あの時に、僕は冬美さんと初めて会った。冬美さんと咲良ちゃんが一緒に居るところを何度か見た。あの時のことを思い出して、気付いたんだ」
「気付いたって、何だよ?」
「咲良ちゃんの持ち物って、使い古された物が多かったなって。上着とか、バッグとか、マフラーとかさ」
僕が言うと、天夏ちゃんが視線を上にして、何かを思い出すような仕草をし始めた。それからこくりと頷いて、
「確かに、思い出してみたらそうだったかも‥‥‥」
「ただ、冬美さんの持ち物には新品みたいに新しそうな物もいくつかあったんだ」
「なんか引っ掛かるな」
春ちゃんも、この持ち物の状態の違いが気になったみたいだ。
「多分だけど、これって姉妹だからなんだよ。姉妹だったり、兄弟だったりするとこういうことってあると思うんだ」
首を捻って考える二人を見ながら、僕は続けた。
「つまり、咲良ちゃんは冬美さんのおさがりを使ってたんだよ。もともと冬美さんが使っていたバッグやマフラーを、妹の咲良ちゃんは貰ってたんだ」
そう言うと、二人は納得するように目を大きく開いた。
おさがりに関しては、兄さんがいる僕にも覚えがある。兄さんが昔に使っていた物を、おさがりとして貰ったことが何度かあったんだ。
「だから、咲良ちゃんはおさがりじゃない自分の物が貰えたら、嬉しいんじゃないかなって思ったんだ。咲良ちゃんの使ってたマフラーが使い込まれてたのを考えると、多分おさがりを使ってただろうし」
「でもそれなら、バッグでもいいだろ。お前の話的に、マフラーだけじゃなくてバッグもおさがりなんだろ?」
春ちゃんの指摘に答える前に、僕は天夏ちゃんに目配せした。アイコンタクトの意味が分から無さそうに、天夏ちゃんは首を傾げた。
「去年の秋、雨が続いて冷え込んだせいで咲良ちゃんは体調を崩したんだ。それを思い出したら、もう寒い思いはしてほしくないなって」
天夏ちゃんの顔がしんみりと優しい表情になるのが分かった。
「多分、咲良ちゃんが居るところって寒いと思うんだ。だから、使われない物だとしても、これを選ぼうと思ったんだ」
二人が選んだプレゼントは、咲良ちゃん以外の家族が使えることを考えていた。
ぬいぐるみはクッション代わりに使えるし、入浴剤は誰だって使える。
本当はそういう選び方の方が良いのかもしれない。
だって、咲良ちゃんはもう居ない。
マフラーが使われることは無い。
使われないはずの物をプレゼントにするのは、とても躊躇われた。
だけど、僕は咲良ちゃんに暖かくしていて欲しい。寒い思いをして欲しくない。
咲良ちゃんが旅立ってしまった空の向こうは、きっと寒い。
せめて少しでも暖かいように、その思いが届くように、僕はマフラーを選んだんだ。
「どうかな、僕のプレゼント」
すぐに返事は返ってこなかった。天夏ちゃんと春ちゃんは顔を俯けていた。
僕は静かに、二人が言葉を発するのを待つ。
やがて、天夏ちゃんが顔を上げた。
「わたし、良いと思う。マフラーをプレゼントしよう」
春ちゃんも、静かにこくりと頷いてから、
「俺も俊彦が一番良いと思う」
胸の奥が熱くなるような感覚があった。
僕の考え、僕の思いが二人に通じた。
そして僕のプレゼントを通して、咲良ちゃんに思いを伝えられる。
込み上げてくるものに心が温まるような気がした。
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