第3話 『学校』
施錠して、家の影から出ると太陽が容赦なく人間と『欠陥品』の私を襲う。出ただけですぐに汗がじわりと出てきた。
私の通っている学校は徒歩十分で着く距離にある。
頭がいい学校とか悪い学校とかではなく、ただ普通の学校で特に活躍しているところも見たことがない。というか実績がそもそもない。
生徒に特徴のとの字もないと言い切れると言われているぐらいに特徴がない。
そんな学校に通う理由はただ一つ、近いからだけだった。
私はもう、見えている白い校舎を見る。まだ新築で五、六年ぐらい前にできた高校だ。だから、何処もボロボロではなくピカピカだ。
校舎を見ながら歩いていると、私と同じ制服を着ている生徒をチラホラ見かける。が、同じ制服というが校則がゆるゆるのため、違う部分も見える。
ジャージの上の方を着ていたりとか、スカートじゃなく制服ではないチェック柄の半ズボンにしていたりとか。
結構自由にできるから生徒の不満もほとんどないが、生徒会はいつしか学級崩壊するのではないかと危惧しているらしい。
「ふわぁ〜」
私は目を擦って欠伸をする。
今朝いつもより早く起きたせいで眠いのだろう。
もうちょっと寝たらよかったかなと考えながら、生徒玄関前へ歩いていく。私は上履きに履き替えて、ローファーを下駄箱に入れる。
少し早く来てしまったから、いつもは騒がしい生徒玄関は静かで少し不気味だ。
私は階段で三階まで上がって、自分のクラス——二年三組の教室へと向かう。
ここの学校は一学年に五クラスあるのが普通で、一クラスに四十人生徒がいる。だから一学年に二百人いる計算になる。
中学校では学年合わせて百人ちょっとしかいなかったから、想像もできないほどだ。
私は教室のドアを開ける。
ガラガラガラ
教室のドア特有の音が鳴った。
すると音に気が付いたのか、教室にいたクラスメイトがこちらを向く。
整った顔に肩に届くくらいの青い髪と、水色の瞳をした男子生徒——
「おはよう、宮下さん」
「……おはよ」
永和は笑って挨拶してくれたが、私は愛想もなく小さな声で挨拶した。
昔は今より愛想良く、大きな声で挨拶していたはずだが、今は人付き合いが最低限、そして多分人付き合いが苦手になっていると思う。だから、昔交流をもっている人——永和ともそっけなく接している原因だと思える。
永和は愛想もなく挨拶した私を気にすることなく、日直の仕事を再開した。
私は自分の席につく。
窓側の前から三番目。
教室には私と永和しかいないため、とても静かだ。この教室に響くのは永和の黒板を綺麗にしている音だけ。
その仕事ぶりを私は頬杖をついてぼーっと見る。
もう、黒板はほとんど綺麗になっていて、私ならこの程度で終わりたいと思ってしまうほどに綺麗だ。
黒板と黒板消しは授業に必要不可欠のもの。それ以外にもこの教室にあるもの全ては、学校で使うのに必要なものだ。
だから、人が大切に使ってくれるし、綺麗にしてくれる。だけど『欠陥品』のものは大切には扱ってくれない。元から壊れているから。
私は人の形を保っているから、かろうじて大切にされているが価値はものと一緒だ。人間という名の動物の『欠陥品』なのだから。
私はそっと目を閉じた。
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