宝石箱の君へ——

水見

一章 『欠陥品』と『執着』

第1話 『欠陥品』

 ある街に一つ浮いた建物が建っている。それは私の家族が住む古民家だ。


 そんな古民家は中は住みにくいため、リノベーションされている。だから、内装は洋風寄りになっている。


 古民家の二階の一部屋。


 ピピピピっと振動しながら、ベッドの上に置いてあるスマホのアラームは鳴る。設定していた時刻は七時。


 私はさっきまでぼーっとベッドの上で座っていたが、急に音が鳴ってビクッとしていた。すぐにスマホかと気づくと、スマホを手に取ってアラームをオフにする。


 私は「はぁ」となんとなくため息をつくと、空を見上げる。見事な快晴だ。今は六月中旬、だがもう季節は夏だった。何故か今年の梅雨は短く、六月上旬で終わってしまったからだ。


 その影響なのか、夏の毎年恒例の大音量のセミの大合唱は耳を澄まして見ても、聞こえない。それに、多分暑苦しくて今日は早く目を覚ました。


 私の部屋にはエアコンがない。だから、いつも扇風機を使って暑さを凌いでいたのだが、去年の秋に壊れてしまった。だから、暑くて暑くて仕方がない。だから、今はうちわを仰いで涼んでいるけれど気休めにしかならない。


 去年と全く違う景色で知らない夏が来てしまったように思えた。


 私は時計を見て、時刻を確認してゆっくりと立ち上がる。そろそろ学校に行く準備をしなければいけないからだ。


 一階にある洗面台に行き、顔を洗って真っ白いタオルでポンポンと水気を取るだけにする。ゴシゴシするより、良いらしいと昔の友人から聞いたのを思い出し、なんとなく最近はこうしている。


 ポンポンするだけでも顔は濡れたままになっていないため、別に不便してないし。

 次に私は適当な櫛で髪をすいていく。薄紫色のした、腰まである髪の髪色は前の母方の遺伝らしい。別に興味ないからへぇという感じだけど。


 私は鏡を見て変なところがないか確認する。


 薄紫色の長い髪で左目を隠れているが、これはヘアピンをした結果。どうやっても左目は見えない。二重でやや吊り目の青とピンク色の混じった瞳、多分十人中三人ぐらいは、振り返ってくれるかな?という具合の可愛いというより、美人よりの少女——宮下愛美みやしたまなみは鏡の私と睨めっこしているようだった。誰もが死んだ目をしているねと言われる私と。


 実際私は死んだように人生が多分つまらない。いつも同じ電車に乗っていて、同じ駅に降りていくように何処までも同じ。何処に行っても変わり映えしないからだ。


 よくわからない世界は人間のフリをしている『欠陥品』には何にも思えない。


 私は感情が乏しい。ただ、感情がないというわけではない。ちゃんと喜怒哀楽の感情はあるらしいが、認識や言葉で表すのがただ、難しいだけだ。


 それを失感情症——別名アレキシサイミアというらしい。


 昔はそれほどじゃなかったはずだが、ある日を境に『欠陥品』になった。いや、もうその前から『欠陥品』になりかけたいた。


 他の人とは感情という名の鎖でいつまでも拘束されている。彼らはそれによって苦しんでいることだろう。

 だからある意味『欠陥品』の方がいいのかもしれない。


 だって、悲しんだりしないのだから。

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