第4話 滅びた街

 ──街は閑散としていた。


 店は荒らされ、建物の一部は破損しており、そして……。


「うっ!?」


 道端には怪物の死骸が所々に散らばっていた。


 それをカラスや野犬、さらにはワニが貪っている。


「何が起こったんだ?」


 新たな体と強大な力を手に入れ絶対的な余裕がある。


 それでも、この光景を目にすれば衝撃を受けずにはいられない。


 ふと、アスカが手を握ってくる。


「アル君、どこに行こうか?」


「ど、どこに? そうだな」


 少しだけ考え込む。


「僕の家に向かおう」


「うんっ」


 すでに、家族との仲は完全に壊れている。


 だけど、全く気にならないと言ったら嘘になる。


 僕とアスカは怪物を避け、歩道を歩いていく。


 ──まるで、数十年経過したかのような景観だ。


 転がるゴミバケツ、うっすらと点滅を繰り返す信号機。


 道路の一部は崩れ落ちており、まるでゴーストタウンのようだ。


「オオオオオオオオッ!」


「!?」


 雄叫びとともに、前方から馬が突撃してきた。


「角が生えてる!?」


 体色は黒く、白く長い角を生やした馬だ!


 馬はアスカの体を串刺しにする勢いで迫ってくる。


「危ないっ!」


「アル君!」


 咄嗟にアスカを庇い、彼女の前に立ちはだかる。


 突進による凄まじい衝撃を感じ、角で突かれながら後方へと押しのけられてしまう。


 すごい、この一撃でも貫かれないなんて!


 だが、体重までは誤魔化せないか!


 僕は馬の腹を力を込めて蹴り上げ、さらに剣を抜き頭を貫く。


「ボエエエエエッ!」


 ドボォッ! という音が響き、馬の腹と背中が破れ臓物が飛び出し撒き散らされる。


 馬は頭と腹からおびただしい血液を流しながら倒れ込み絶命した。


 シャツを揺らしながらパタパタとアスカが駆け寄ってくる。


「だいじょぶ!? アル君!」


「平気さ、何ともない」


 実際、凄まじい頑丈さだ。


 これなら、マシンガンや狙撃銃にもビクともしないかもな。


 アスカは倒れた馬を見つめている。


 まさか……。


「お腹、すいたな……」


「ま、まだ食べるの?」


 どれだけ食欲あるんだ?


 でも、確かに馬をこのままにしておくのは勿体無い。


 僕は剣で馬をスパスパと切り刻み、解体していく。


「なんか……生でもおいしそう……」


「確かにいけるかもしれない」


 馬刺と思えば、確かに美味しそうな気がしてきた。


 試しに薄く切った馬肉を口に入れてみる。


「美味い!」


「ホント、おいしい!」


 臭いもクセも無く、赤身肉の旨味が口の中に広がっていく。


 上物の馬刺って、こんな感じなんだろうか?


 緊張感のないことを思いながら、またしても内蔵と骨を残して全部食べてしまった。


「おいしかったぁ……なんか、力が湧いてくるみたい」


「た、食べ過ぎだろ」


 実際、この食欲は異常だ。


 多分、アスカも普通の人間じゃないのかもな。


 まあ、あまり気にはならないが。


「よし、行こう」


「うん、行こっ、アル君」


 アスカは僕の腕にしがみつき、離れようとしなかった。


 うおお、やっぱり、めちゃめちゃ可愛い。


 馬の残骸に群がるカラスを一目見ると、僕とアスカはこの場を立ち去った。


 ──家に向かおうとして歩き続けること30分。


「おかしい……」


「どしたの、アル君?」


「建物や道の配置が違うんだ。こんなことって……


 確かに学校やその近辺は見覚えがあったが、進んでいくと全く見慣れない場所が散見されるようになった。


 そもそも思い返してみると、学校も細部が違った気がする。


「僕の知ってる街じゃない」


「え……?」


 ふと、民家の窓から中が見え、カレンダーが目に入る。


「時空光暦1999年……?」


 バカな……今は西暦2025年のはずだ!


 時空光暦なんて聞いたことない。


 僕の中で少しずつ確信と疑念が混ざりあってゆく。

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