第5話 弱者をいたぶるクズどもの末路
「もしかしたら、ここは別の世界なのかもしれない」
「えっ、そうなの、アル君?」
「まだ、決めつけるのは早いけどね」
シャツの裾をつまみながら見上げてくるアスカに僕は腕を組みながら答える。
「年号が変わってる以上、未来だとしたら2000年以上は経ってる。それなのに文明が全く変わってないのはおかしいなと」
「うんうん」
アスカは長い金髪を揺らし、僕を見つめながら頷く。
だからといって異世界に転移したというのは極論かもしれないが。
「あと、気になることが」
「うん?」
「ここから先の建物とかは、あまり荒らされた跡が無いのが気になってさ、何かあるのかなって」
「ホントだね……こっちは動物が荒らした跡があるのに~」
アスカは少し屈んで建物や道路を眺めている。
裸ワイシャツでは丈が短いため、見えそうになってしまう。
僕は慌てて目を反らした。
その瞬間だった。
「いやぁぁぁっ! お婆ちゃんを殺さないで!」
女性の悲鳴!?
「ア、アル君!」
「行ってみよう!」
怪物に襲われてるのか!?
悲鳴の聞こえた方へと走ると、顔つきの悪い男たちがお婆さんに拳銃を突き付けていた。
「ババアに価値無しぃ! 無駄飯食いの役立たずぅ!」
「俺たちはこんなに役に立ってやってるのに、なんだこの体たらくは! 死ねー、ババア! ギャハハ!」
3人の男たちは下衆な笑い声を上げながらしゃがみ込んだお婆さんを見下し、引き金に指をかける。
「お願いします! 助けて下さい! 何でもしますから!」
「うほー、だったら俺の女になれや!」
「俺の女にもなれや! あの男と縁を切ってなぁ!」
「うぅっ!」
男たちの横暴に女性は涙を流しながら頷こうとすると、お婆さんはそれを静止する。
「ダメよ! 夏子ちゃん! 私は良いから!」
「うるっせぇんだよ! このババア! もう死ねや!」
「ゲハハ! やっちまえ!」
「やめてぇぇーっ!」
この……ゴミ野郎どもが……。
気付けば僕は高速で移動し、男たちから拳銃を取り上げていた。
「は?」
「へ?」
「俺の銃、どこ行った?」
そして僕はお婆さんの前で膝をつく。
「婆ちゃん、立てる?」
「え、ええ……あなたは?」
「通りすがりの者だよ」
婆ちゃんの手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。
「なんだテメェ! イカれた格好しやがって!」
「ぶっ殺されてえのか! このキチガイが!」
僕はゆっくりと振り返り、怒鳴り散らす男たちに言い放つ。
「……今なら見逃してやる……僕の目の前から消え失せろ。この……クソゴミどもが!」
「んだとぉ! 死ねやコラァ!」
「アル君!」
アスカは叫び、男の1人が大型ナイフで僕の胸を突き刺してくる……だが……。
「ナッ、ナイフが通らねぇ!?」
「無駄だ……僕の肉体はマシンガンの銃撃にも耐えられる。そんなのでは傷一つにもならないよ」
僕はナイフを持った男の腕を握り潰す。
「ぎゃあああああああっ! 腕がぁーっ!」
男は腕を押さえうずくまる。
「ひっ、ひぃっ!?」
2人目の男は隠し持っていた拳銃を取り出し、僕に向かって乱射する。
「…………」
「め、目ん玉に当たったのに……」
男の拳銃を取り上げ、肩口に剣を突き刺す。
「ひぎゃあああああっ!!」
男は肩を押さえ、絶叫する。
瞬間、アスカの悲鳴が響き渡る。
「やっ……!?」
「く、来るな! その剣捨てろ! この女がどうなっても……」
3人目の男はアスカに組みかかり、頭に拳銃を突き付けようとする。
「汚い手で、アスカに触るな……」
僕は高速で男に迫り、拳銃を取り上げ男の顔面に拳を叩き込み、鼻を陥没させ歯をバラバラに砕く。
「お……ぼ、ぶおぉぉ……」
男は顔面を押さえうずくまり、涙をボロボロ流しながらうめく。
そして僕は歪んだ笑みを浮かべながら男たちを見下ろす。
「ひ、ひぃぃぃぃっ! バケモノ……バケモノォーっ!!」
男2人は脱兎の如く逃げ出し、建物の荒れた領域付近に到達した、その時だった。
「うぎゃあああああああっ!!!」
「たっ……助け……ひぎゃああああああっ!!!」
男2人は待ち構えていた2匹のワニに噛みつかれ、無惨に引きちぎられながら食われていく。
男たちは恐怖と後悔、絶望の表情を浮かべながら泣き叫び、頭を噛み砕かれ絶命し、ワニたちの腹に収まってしまった。
「…………」
まったく可哀想という感情が働かない。
僕は冷酷だなと、自嘲気味にボソッと呟く。
「そんなこと……ない」
「アスカ?」
アスカは僕の手を握りながら見上げてくる。
「お婆ちゃんを、助けた……ワタシを助けてくれた……アル君は、優しいよ」
「……っ!」
思わず涙が出そうになる。
「それにアル君は、アイツらに逃げろって言ったよ。じゃあ、悪いのはアイツらで……やっぱりアル君は優しい……」
長い金髪を揺らし、パッチリとした金色の瞳で僕を見つめながらアスカは続けた。
「ありがとう……」
肉体が変貌し、心までバケモノになってしまった僕をアスカは優しいと言ってくれた。
その言葉と眼差しに、僕の心は救われた気持ちでいっぱいになる。
僕は無意識に微笑みながらアスカの頭を撫でていた。
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