路上占い、あれこれ73【占い師はボディーガードになる】

崔 梨遙(再)

濃厚、2485文字です。

 僕の馴染みの風俗嬢に、小夏という女性がいた。小柄で可愛い系だが、脱いだらスタイルも良いのだ。僕と小夏は、小夏のプライベートタイムにデートするくらい親しくなっていた。


 プライベートでも会えるのだが、売り上げにも協力したいから店にも指名して行く。 順調に進展していく僕と小夏のように見えたが、或る日、小夏を指名して店(受付)に行くと、奥が騒がしかった。


「崔さん、ちょっと待ってくださいね」


店長もバタバタしていた。


「どうする? 病院に行くか?」

「崔さんの予約があるから、それが終わってから。警察の事情聴取も後で」

「その顔で接客は無理やろ?」

「大丈夫。崔さんなら受け止めてくれる。店長、行ってきます」


「崔さん、お待たせしました」


 出て来た小夏の左目に、痛々しい青たんが出来ていた。明らかに殴られた後だ。


「小夏ちゃん、その顔・・・」

「崔さん、とりあえず行きましょう」



「どないしたん? 誰に殴られたん?」

「お客さん」

「どんなお客さん?」

「ウチの店には初めて来た酔っ払いのサラリーマン」

「なんで殴られたん?」

「なんか、荒っぽくて、ホテルに入ったら私の服が破れそうな勢いで乱暴やってん。ほんで、怖くなって距離をとったら『逃げるな』って殴られた」

「ほんで?」

「逃げながら店に緊急連絡したら、店長達が来てくれて・・・」

「相手は?」

「捕まえた。店長が警察に連絡した」

「もう、今日はプレイしている場合とちゃうで。料金は払うけど、先に警察と病院や。店に戻ってくれ」

「崔さん(小夏は指名写真に25歳と書いてあったが28歳、誕生日がきたら29歳だった。僕よりも2つ年下。僕が年下に興味を持つことは珍しい)、申し訳無いけど、警察とか病院とか、ついてきてくれへん? 1人やと怖いねん。一緒にいてほしいんやけど、アカンかな?」

「そのくらい、OKするに決まってるやんか」



 僕は、警察の事情聴取も病院も小夏に付き添った。ただ、横で話を聞いているだけだったけれど。



「崔さんが一緒にいてくれたから、すごく安心でした」

「それは良かった」

「でも・・・どうしよう? これから店に出るのが怖い」

「怖かったやろうからなぁ、しばらく休むか?」

「アカン、早く土地を買いたいもん。稼がないと」


 小夏の本業はトリマー&ブリーダー、自分の店を持っている。今は、その店の土地を買うために頑張っていたのだ。


「ほな、どうする?」

「崔さん、私がこの仕事が怖くなくなるまで、トラウマが無くなるまで、私のボディーガードをしてもらえませんか?」

「え! マジ?」

「ダメですよね・・・すみません、甘えたことを言ってしまいました」


 (またトラブルかよ! なんで僕はこんなにトラブルに巻き込まれるねん?)と思いつつ、やっぱり僕はこう言ってしまったのだった。


「そんなん・・・OKするに決まってるやんか!」


(嗚呼、ああ、言ってしまった。あーあ)


「ありがとうございます! で、いきなり甘えてすみません。今日、私を家まで送ってもらえますか?」

「うん、ええよ。ほな、一緒に帰ろうか、明日は僕も休みやし」

「私、自分の住んでるマンションに男性を入らせるのは初めてです」

「そうなんや、それは光栄やな」



「ほら、これで目を冷やして」

「すみません」

「こんなもんかな? 小夏ちゃんを着がえさせて、ベッドに寝かして目を冷やした。ということは、もう僕に出来ることは無いかな?」

「崔さん・・・」

「ん? 何?」

「今夜は泊まってほしいです。まだ怖くて震えてるんです」

「ええよ。ほな、僕はソファで寝よか?」

「ベッドで一緒に寝ましょうよ。シングルベッドだから、少し狭いですけど」

「それは嬉しいなぁ、ほな、ベッドの中にお邪魔します」

「あの・・・今日はエッチは無しでいいですか?」

「当たり前やろ!」



 僕は金曜の晩と土曜日、小夏のボディーガードとして、僕は出動することになった。待機所のマンションの1室に入ることは出来ないので、小夏が待機所にいる時はマンションの下で見張り。小夏が出動すれば、店からホテルまで無事に辿り着くまで見届け、ホテルの待機場所で時間を潰し、小夏が出て来たら小夏が店、そして待機所に行くまでを見届ける。これが・・・めっちゃしんどいのである。なんという時間の浪費? だが、小夏から緊急連絡があればスグに駆けつけないといけない。しかも、しのぶ、アキナ、ミナミ、あかねと会うこともある。


「崔君、今日も小夏ちゃんのボディーガード?」


彼女達は、笑いながら僕に話しかける。めちゃくちゃ気まずい。っていうか、待機所でみんなに話すなよ、小夏。


 だが、ご褒美はあった。金曜と土曜の晩は、小夏の部屋で眠れるようになったのだ。勿論、小夏を抱ける。小夏と僕は急接近。


 そんなことが2ヶ月以上も続いた。


「崔さん」

「何?」

「ごめんなさい、私、もうトラウマは無くなってたんです」

「え! そうなん?」

「でも、金曜と土曜の晩、崔さんが泊まりに来てくれるのが嬉しくて、トラウマが無くなったと言ってしまったら、もうそんな日々が来ないような気がして、言えませんでした。すみません」

「ほな、もうボディーガードは不要やな」

「はい、そうなんです」

「で、小夏ちゃんはどうしたい? どうしてほしい?」

「これからも泊まりに来てくれますか?」

「うん、勿論、OKに決まってるやんか!」

「私、毎晩でも崔さんと一緒に寝たいです!」



 半同棲生活になった。



「崔さん」

「ん? 何?」

「ごめんなさい、お別れです」

「え! どないしたん?」

「実は、金持ちのオジサンから愛人になれと言われてるんです」

「ほんで?」

「愛人になれば、私の店の土地を買ってくれるそうです」

「マジ! 大金持ちやんか」

「そうなんです。悩んだんですけど、今みたいに地道に貯金するよりも手っ取り早いので、私、その人の愛人になることに決めました」

「ほな、僕とはもう会われへんの?」

「はい。その人から『愛人になったら、他の男と付き合ったらアカン』と言われていますので・・・」

「そんなん・・・そんなん・・・勿論、OKに決まってるやんか!」


 僕は小夏の部屋から出た。胸が苦しかった。泣きそうで、涙は出なかった。



 僕を慰めてくれる人は、いなかった。




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路上占い、あれこれ73【占い師はボディーガードになる】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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