推理アイデア02
@1o27
第1話 誤謬
※登場人物
・雅 有珠 (みやび・ありす)
・三木 幸 (みつき・こう)
※以下本編
↓↓↓
「有珠。“思いつかない”…ということは、誤謬だと思うか?」
幸はバスに揺られながら、隣に座る少女に、そう投げかけた。
彼女は答える。
「正解があるにもかかわらず、『ない』と答えるのは当然、誤謬よ。…ただ、“思いつかない”の定義によっては、難しいところね」
「……俺は、“それ”が創造性だと思ってる」
「なるほど。『間違えない』ではなく、『問いをたてる』ということかしら」
幸は、有珠が話題に興味を示したと考え、ふと思いついた謎かけを口にした。
「その話の繋がりで、ひとつ問題を出していい?」
「どうぞ」
有珠はそう言って、続けるよう促した。
「あるときAは、『盲目の男』と、彼の杖を取り上げて遊んでいる『意地悪な男』に出会った。
『意地悪な男』は結局、『盲目の男』に杖を返したが、義憤に駆られたAは『意地悪な男』を懲らしめてやろうと考えた」
「──そこで、Aは“四階より下の階でエレベーターから降りると死んでしまう”というビルに、二人を誘い出した。
ただし、そのビルが、“四階より下の階で降りると死ぬ”というのは、二人とも知っている。
そのため、片方が四階より下の階で降りようとした場合、もう片方がそれを教える。
──しかし、Aの目論み通り『意地悪な男』“のみ”が死んだ。
さて、Aはいったい、何をした?」
少女は、『また、その手の問題か…』と言いたげな表情を浮かべる。
「…そのエレベーターの中には、停まった階数が表示されるものはある?」
「んー、ない」
「そのビルに地下はある?」
「あるよ」
「もう分かったわ。──Aはあらかじめ、エレベーター内のボタンを削り、何も書かれてない状態にしておいて、点字の表記だけを残した。
そして、『意地悪な男』は下から数えて四番目のボタンを押した。
でも一番下は地下階のボタンなので、男は三階で降りてしまった──違う?」
有珠は何でもなさそうに、そう答える。当然、正解だろう…とばかりに。
しかし、幸は嬉しそうに答える。
「全然ちがいまーす!」
「は?」
「もしも、『盲目の男』が四階を押していたら、その下の階で降りようとした『意地悪な男』は呼び止められちゃうでしょ?」
有珠が言う。
「問題の内容は、手口ではなく『なぜそうなったか』でしょ…。
それに…それを言うなら、『盲目の男』が階数を知る手段だって無いじゃない…」
「そうだね。だから正解は──」
幸は、一拍置いて話し始める。
「Aが黙ってエレベーターに乗り、二階に差し掛かったところで三階のボタンを押して、急に扉が三階で開いたことに困惑する『意地悪な男』を蹴り出す…でした!
こうすれば、『盲目の男』はAが居ることを知らないから、静止されることはないでしょ?
後は、気まずい空気のまま、残った二人は四階で降りられる…というわけさ!」
…その口調は、完全に幸福感に包まれた人間のそれだ。無理もない、普段から彼女に負けっぱなしなのだから。
対照的に、有珠は唖然とした様子だ。
彼女は言う。
「じゃあ、なんで『階数を表示するものはない』とか、『地下がある』とか言ったのよ…。
『分からない/関係ない』でいいじゃない…! それだと、意図や論点の把握に秀でてるほど不利だわ…」
幸は首を傾げる。
「いやまあ、なんとなく言っただけだよ? あんま関係ないかなって。
……そうカッカしないで!」
幸がそう言葉を掛けたっきり、丸一日、有珠は口を利かなかった。
推理アイデア02 @1o27
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