第7話 薬師デビュー
朝早く、ミオがリビングに足を運ぶと、
すでに和井先生は起きていて、窓際で日の光を浴びていた。
「おはようございます、和井先生」
「おはよう、ミオ。朝ごはん、食べるかい?」
先生は微笑みながら、優しい声で尋ねた。
ミオは笑顔で頷く。
和井先生は焼き立てのベーコンエッグにパンとレタスを添え、彼女に差し出す。
「今日の朝ごはんも美味しそうですね!」
「そんな大層なものじゃないけど、そう言ってもらえると嬉しいな」
先生の笑顔は、朝の光のように温かかった。
「いただきます」
2人は穏やかな朝のひとときを分かち合い、食事を終えると、すぐに薬師の仕事に取り掛かった。
「ミオ、これから星の丘に咲くカモミールと特別な水を取りに行く。一緒に来てくれ。」
「はい!」
和井先生は黒竜に姿を変え、ひょいとミオを背中に乗せる。
「行くよ、しっかりつかまっててね。」
ミオは竜の首に手を回し、心臓が高鳴るのを感じた。
黒竜は羽を大きく広げ、雲を突き抜けて飛ぶ。
やがて星の丘に到着すると、一面に広がるカモミール畑が目に飛び込んできた。
柔らかな白と黄色の花が風に揺れ、香りが淡く漂う。
「ミオ、このバスケットに摘めるだけ摘んでくれ」
「そんなに摘んでも、大丈夫ですか?」
「もちろん。ここは星に近い特別な畑だから、普通より早く育つんだ。無理なく摘めば大丈夫さ」
ミオは慎重に花を摘み、バスケットに丁寧に入れていく。
その手つきには、初めてながらも確かな慎重さと愛情が込められていた。
次に向かったのは丘の奥の湖。
透き通った水面は星の光を映す鏡のようで、静かに輝いている。
「ここの水も星の加護があって、薬作りや傷の手当てに最適なんだ」
和井先生は大きな水筒に水を汲み入れる。
ミオはその様子を真剣なまなざしで見守った。
薬舎に戻ると、いよいよ薬師としての実践が始まる。
「まずはカモミールの花を火にかけて、水分を飛ばすんだ」
ミオは鍋に花を入れ、弱火でじっくり炒めていく。
「その調子。水分が抜けたら、すり鉢ですっていく」
先生は横で見守りながら、ミオの手際の良さに微笑む。
「すりおろしました」
「次は少量だけ、湖の水を加える。混ぜながら、薬を使う人の傷が癒える姿を思い描くんだ」
ミオは息を整え、心を込めて混ぜた。
やがて黄金色に輝く薬が完成する。
「さすがミオ!すごいじゃないか!」
先生は頭を優しく撫でる。
「材料を混ぜただけですよ……」
「いや、ただ混ぜただけじゃ、星は答えてくれない。君の心を込めたから、薬が輝いたんだ」
ミオは照れくさそうに笑った。
「ミオ、腕を貸してごらん」
先生は彼女の腕をまくり、すり傷に薬を塗る。
「先生!気づいてたんですか?」
「カモミールを採っている時、君の腕まくりを見たんだ。後で塗ってあげようと思ってね」
優しい眼差しに、ミオの胸が熱くなる。
「傷が少しずつ消えていく……」
「君の祈りに、薬が答えてくれたんだ。これで立派な薬師デビューだ」
先生は笑いながら、温かく言った。
ミオは胸を高鳴らせ、これからも薬師として成長していく決意を新たにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます