第3話 星のカケラと約束
風が、羽音とともに唄っていた。
夜の名残を抱いた薄明の空を、黒竜が滑るように進む。
その背で、ミオは目を見開いたまま、言葉を失っていた。
「わあ……まるで夢みたい……。」
足元には、霧に包まれた森と海。
遠い水平線は、金と群青のグラデーションを描いている。
竜――いや、和井先生の背はあたたかく、しっかりとしていて、
まるで夜空そのものに包まれているようだった。
「高いところは平気かい?」
「……ちょっと怖いけど、大丈夫です。先生がいるから。」
竜の横顔が、ふっとやわらいだ。
その一瞬に、ミオの胸がかすかに跳ねた。
やがて雲を抜けると、そこには無数の光の粒が舞っていた。
「これが……星のカケラ?」
「そう。高いところにある星のカケラは、
陽のあるうちは落ちずに、
こうして漂っている。
光が強いほど、朝の陽にも溶けずに残るんだ。」
先生は翼をひと振りして、宙に浮かぶ一つをそっと掬い取った。
手のひらの上で、それはかすかに鼓動するように光った。
「ミオさん、触ってみるかい?」
「いいんですか!?」
差し出された星のカケラに、そっと触れた瞬間――
それはふわりと震え、まるで微笑むように輝きを増した。
ミオの胸の奥が、じんわりと熱くなる。
孤児院で感じた寂しさや孤独が、風の中で少しずつ溶けていくようだった。
「ねえ、和井先生……」
「うん?」
「私、先生と一緒にいろんな星のカケラを拾いたい。そして、誰かを癒せる薬を作れるようになりたい。」
竜の背の上で、先生は小さく息を吐いて笑った。
「そうか。じゃあ――弟子にしてやろうか。」
「えっ!? ほんとに!?」
「もちろん。」
和井先生は、竜のまま静かに頷いた。
その瞬間、空の果てからひと筋の光が流れ、
祝福のように二人の間を照らした。
「よし。これで、君はオレの弟子だ。」
「はいっ! 師匠!」
「今まで通り、先生でいいよ。」
朝の空に、二人の笑い声が響いた。
風が花の香りを運び、眼下には金色のカモミール畑が広がっていく。
「次は、あの畑に降りよう。
星の薬以外にも、大切な薬の材料があるんだ。」
「はい、先生!」
空の下、竜の背に乗った少女と薬師の物語は、
ゆっくりと、けれど確かに動き出していた。
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