やりたいことがない俺とやりたいことがある彼女

@medamayaki222

第1話

東京に行く。手荷物を預けて、スマホで搭乗券をキャビアアテンダントに見せる。最近はオンラインでチェックインができるらしい。預ける荷物をベルトコンベアに乗せ、中身を精査する。「パソコンは入ってますか?」と言われ、入っていたが流れで「入っていません」と言ってしまった。何か言われるかなと思ったがベルトコンベアに乗った荷物が流れてきて「大丈夫でした」と手渡される。


搭乗口を通過してまだガラガラのロビーで飛行機を待つ。まだ、飛行機の出発時刻まで2時間ある。視線を何もないとこに置くように、ぼーっと過ごす。何分か経った後にポンポンと肩を叩かれた。「高橋くん?」後ろを振り向くと、浅田さんがいた。卒業する前は黒かった髪が明るい茶色になっていて肩までかかる髪が内側にカールしている。驚きで声がうまくでず、えっ、と言葉にならない声がでる、「高橋くんも県外の大学に行くの?」「そう、浅田さんも?」「うん、私は大阪の大学に行こうと思ってる。地震について勉強したくて。」「地震?」「そう、私の友達が地震で亡くなっちゃったから、少しでも地震を早く予期できるようになったら友達も助かったかもなと思って」へへへ、と浅田さんは少し悲しさと照れを混ぜ合わせたような笑みで笑う。高校の時も友達に気を遣ってたときに、そんな笑いをしてたなと思い出す。「高橋くんはどこの大学行くの?」「俺は東京の大学だよ」「おー都会人だ!なんの勉強するの?」「物理だよ」「めっちゃかっこいいじゃん!高橋くん、物理でいい点数取ってたもんね」俺の点数を覚えてくれたんだとそれだけで嬉しくなってしまう。「でも、俺は高橋さんみたいな立派な理由はないから全然すごくないよ。ただ、偏差値で自分が入れそうな大学を選んだだけ」浅田さんの大学を選んだ理由に比べたら俺がただ周りに流されて大学生活をおくるのが恥ずかしかった。「でも、やりたいことが見つかるのなんてタイミングの問題だから早く見つかるのが偉いとかないと思うよ。やりたいことなんて途中でかわることもあるからね。もしかしたら、私も地震のことを勉強したいと言ってるけど、大学入ったら変わるかもしれない」俺は浅田さんの目を見る。ニコニコと笑っていて、俺が好きな目だった。「そうだね。まあ、大学でやりたいことを見つけるのが今の俺のやりたいことになるのかもね。」「そうだよ!それで、また別のやりたいことが見つかったら私に教えてよ」「わかった。浅田さんもその時のやりたいことがまだ続いてるのか、変わってるのか教えて」

「うん」まもなく、大阪行きの〇〇番の飛行機の出発時刻となります。ご登場される方は受付前までお集まりください。上からアナウンスが流れる。「じゃあ、私行くね」

浅田さんはヒラヒラと手を振り歩き出す。

ぽっかり空いた空間を見つめながら切なさと少しの未来への期待を感じた。

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