ある冬の日

Cris

12月23日

「ただいま~!」

「お邪魔します」

 なぎさ束沙つかさのことを気にも止めずに台所へ走り、さっと手洗いとうがいをして和室に向かった。束沙が和室に入るときには、コタツの中で完全に力を抜いていた。

「あったか〜」

 その様子を見た束沙は微笑む。

「束沙も早く入りなよ」

「じゃあ、お邪魔します」

 束沙が向かいに座ろうとすると、渚は伸ばしていた脚を折り曲げる。

「あ、ごめん。足が当たっちゃった」

「別に気にしなくてい〜よ……つーか冷たすぎね?」

「そんなことはないと思うけど……。くすぐったいよ」

 渚は少しワルい顔で笑い、足でつつき続ける。束沙は少し耐えた後、両足で渚の足をつかむ。

「あっ、つめてっ!?」

「イタズラのお返しだよ」

「なんでそんな冷てぇんだよ……」

「そんなこと言われても……」

 一瞬2人の視線が合い、ふと渚が笑い出す。

「去年も似たような会話したよな」

「え……、あ、確かに。僕の手が冷たいって言ってたね」

「手袋してんのになんでだよって……今も冷てぇの?」

 渚が出した手を束沙は軽く握る。

「……冷てぇ」

「さっき手洗ったから」

「それ言ったら俺も同じだろ。コタツに手も突っ込め!」

 渚は手を離そうとするが、束沙は掴み直す。

「どした?」

「渚と繋いでいたほうが、温かい」

 そう言って微笑む束沙に渚は少し言葉を詰まらせる。

「……、いや、コタツに入れたほうがいいだろ、つーか、俺が寒いんだけど!?」

「そう、だよね。ごめん」

 束沙は名残り惜しそうにそっと手を離す。渚は少し考えた後、顔を赤らめたまま一度立ち上がる。束沙が不安気に見ていると、束沙の隣に移動した。

「……ここなら、コタツん中で繋げるだろ」

 そっぽを向きながら言う渚に、束沙は一瞬固まってから微笑んだ。

「ありがとう、渚」

「……そういや、束沙ん家ってコタツないんだよな」

「置く場所がないから、ストーブくらいかな」

 渚は少し眉をひそめる。

「去年どうやって乗り切ったんだよ」

「エアコンはずっとつけてるよ。あと」

 束沙は窓の外に視線を向ける。

「地元よりは全然寒くないから、かな」

「……そっか」

 渚は机に顎を乗せる。

「俺は部屋行くのも嫌だ」

「エアコンとかもないんだっけ?」

「ねぇよ。ストーブも物多すぎて置かせたくないって。寒すぎてあんま寝れねぇのにさ、ひどいよな!?」

 ズイッと顔を近づけた渚に少し気圧されながら、束沙は軽く眉を下げて微笑む。

「コタツで寝られたら良いのにね」

 渚は元の位置に戻りながら頷く。

「……そういや、冬休みもバイトすんの?」

「するよ。夏休み明けも土日は入ってたし」

「え、マジ?」

 束沙は頷く。

「気づかんかった。バイトしててあんな点数いいのかよ」

「渚は勉強せずにゲームしたって言ってたけどね」

「俺はそれで赤点取ってるから当然だろ。でも、束沙はバイトしてる上に点数いいって……おかしいだろ!?」

 渚は不安そうに束沙を見る。

「ちゃんと休めよ?」

「休んでるよ。それに」

 束沙は軽く渚に寄りかかる。

「今、とても幸せだから、なんでもできるような気がするんだ」

「……よかった」

 渚は空いていた手で、束沙の頭をやさしく撫でた。

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