俺を道連れに死のうとする彼女とそれでも彼女が好きな俺

@729534

第1話

 高校3年の入学式を控えている三月、暖かい春の風が吹くなか、俺、藤原楓は公園のベンチに座り、スマホをいじりながら、ある人物を待っている。程なくして目当ての人物がやってくる。

「お待たせ〜楓〜。じゃあ映画館行こっか」

「ああ、飛鳥。大幅に遅刻しておいて時間通りに来たみたいなテンションも相変わらずだな。」

「もう〜そんなこと言わないでよー、そんなに遅れてないって〜」

 そう言って頬を膨らませる飛鳥。その姿は普通に可愛かった。今の時刻は8時半。約束の時刻は8時だった気がするが、、、まあそんなに遅れていないと言うことにしておこう。俺はそんなに時間にうるさい性格ではない。

 そうして俺たち2人は駅前の映画館へと手を繋ぎながら歩いていく。

「ああそういえば、楓のお兄ちゃんどうなったの?」

「保護観察で済まされたらしい。アイツによると、長年の経験から上手く証拠を消して、建造物侵入しかつかなかったらしい」

「嬉しいというか、悲しいというかそんな感じだね」

「また、アイツによるともう2度とこんなことはしない。後悔してるって。」

「ついに更生したの?」

「小学校に入る時間がいつもより遅かったことに後悔してると」

「もうだめだね」

 俺の兄は

 今こうして俺とデートをしているのは、椿飛鳥。俺の彼女だ(デートしてる時点でほぼ確定だが)。一見普通の可愛い女子高生に見えるが、中身はキチガイ。どんなふうにおかしいかと言うと、、、。

 曲がり角を曲がり、映画館が見えてきた時、彼女が俺の腕を両手で掴んでくる。そして言葉を放つ。

「ねぇ、いつになったら私と死んでくれるの?」

 お分かりいただけただろうか。こういう感じの頭のおかしさなのだ。そして、さらに恐ろしいのはこれを笑顔で言ってくるところだ。悲しさなど微塵も感じられない。

 普通の物語だとこういうのは人生に絶望し、2人で号泣して永遠の愛を誓いながら海に飛び込む時に言うようなセリフだと思うのだが。

「ねぇ〜どうなの〜?」

「死んでもお断りだな」

「じゃあ死のうよ〜」

「丁重に遠慮させていただきます」

 言葉だけでなく、コイツは実際に行動に移してきたこともある。いつからこんなにおかしくなったのだろう。普通の人ならとっくの昔に縁を切っていたが、俺はこれでも彼女は俺の生活に必要不可欠なピースとなっている、関係を断つつもりはない。世間から見れば殺そうとしてくる相手を好きでいるなんて俺もキチガイかもしれない。

 そんなどうでもいい?な会話をしていると映画館に着く。


 私が楓と死にたいと思ったのは楓と付き合って二ヶ月程経った時だ。私が何故死にたいかと言うと、理由は単純。別に悲しいわけじゃないが、人生がつまらないからだ。毎日同じことを繰り返すのに、単純に飽きた。そんな私にも大切な物ができてしまった。楓だ。私が死んだら楓はいつかきっと他の人に取られてしまうことになるだろう。そんなことは受け入れられない。そこで私が考え出したのが楓と死ぬことだ。これで楓は永遠に私のモノ。そうして私はこれを目指すようになった。しかし普段は半分冗談だ。何故なら日々のつまらなさと楓と過ごしている時の楽しさが釣り合っているから。私がこの計画を実行しようとするのは何か辛いことがあってこの均衡が崩れた時だけ。


 俺たちは映画館に入り、あらかじめ予約していたチケットを受け取る。俺たちが見るのは飛鳥に勧められたよく分からない恋愛モノ。

俺はこういうのをあまり見ていないのでどんな感じかわからないが、まあ楽しもう。映画のシアターの中に入ると、女子しかいないのが分かる。俺は浮いてしまい、周りからの注目を浴びることとなってしまった。こんなはずじゃ。俺は彼女とのデートを楽しみに来ただけなのに!俺はポップコーンを食べる手も進まず、小さくなりながら映画を観た。どうやらヒロインが振られる話らしく、周囲の女子達が号泣していたものの、俺はそのテンションについていけず、作品もあまり理解できないまま、映画を観終えた。

「面白かった?」

「なんだかよくわからなかった」

「私も。なんかヤラセな感じがすごい」

「それは思った」

 感情を共有できていたのが少し嬉しかった。俺が彼女と付き合い始めたのは高二の初めの頃の5月ぐらいだった。



 はい、作者です。この作品はまあ結構暗めなんで息抜きに日常のほっこりする描写も入れながらやってきたいと思うのでよろしくお願いします。




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