ダンピール
アオバ ツボミ
第1話 死神
街灯の少ない町の隅
「ちゃんと右腕くっつけてやったんだ。仕事はちゃんとしろよ」
深夜0時を過ぎた深夜
「へいへい分かってますよ」
―――ミチミチミチッ
軽い調子で返事をした男がナイフで腹を切り裂く
「何度見ても慣れないな」
そう呟く男の隣で腹を切った男がうごめく
服を脱ぐように男はうねうねと体をひねると
―――ビチャビチャビチャッ
血や内臓らしきものと共に
腹の中から頭の無い骸骨が飛び出した
まるで下半身は肉付きのよい男の足を持ち、皮一枚でつながった胴体からは骨が飛び出していた
その男の奇妙な姿に隣で話していた男が目を細める
「こんな奇妙な姿、太陽のある朝にじっくりとおがみたいものだな」
「そうか。そこまで面白いもんじゃないぞ……それで仕事の確認だ」
半骸骨男はそう言うと骨だけになった指をピシッと構える
「お前らのミスでここらに解き放っちまったヴァンパイア約4人の確保だろ?」
「あぁ。出来たら殺してほしいが」
男が服に付いた血を拭きながら応える
「悪いな。俺はヴァンパイアの殺し方までは知らないんだ」
半骸骨男はそう言うと夜道に消えた
男が息を切らしながら必死に走る
もう0時を過ぎたというのに左右に立ちふさがる店たちはどれ一つネオンの明かりを消す気配はない
中途半端な田舎特有のやけに細長い建物には裏路地と言うものは無く身を隠せそうな場所もない
「はぁ……はぁ……」
フードを深くかぶった男は息を整える
多少目立っている気もするが深夜のホテル街にいる男なんてだいたいこんなもんだと自分に言い聞かせ速足に歩き続ける
視界の端では汗臭そうなおっさんと舌の青そうな女がハァハァ言いながらキスしてる
「気持ちわりぃ」
男は吐き捨てるようにそう言うと休憩と書かれたホテルに入る
一晩泊まろうと受付をするが
「マイナンバーや免許証など年齢確認できるものはお持ちでしょうか?」
最近は何処もこれだ。どこ行っても俺も入れさせてくれねぇ
「持ってねぇんだよ!気が付いたらここに居て金も財布もねぇんだ!」
男はそう怒鳴るとカウンターを叩き店を出て行く
―――ヤバイヤバイヤバイとにかくここから離れろ
俺のヴァンパイアの勘がそう言ってる……俺の……?ヴァンパイア……?
……そうだ!俺はヴァンパイアなんだ!思い出した
男はいきなりフードを外し異様に発達した犬歯を見せつけるように突きつける
「俺はヴァンパイアだ……俺はヴァンパイアだ……」
男は何度もそうつぶやきながら足を速める
「俺は……」
―――グシャッ
男の足元に頭部が転がる
「コレで4人目。仕事終わりっ」
男が最後に見たのは腰から上が骸骨の不気味な生物だった
「—――フハハハハハッ引っかかったな馬鹿め」
道の端でタバコを吸っていた奴がそう言いながら立ち上がると
周りの奴らもぞろぞろと立ち上り半骸骨男を囲う
「……お前らはヴァンパイアか?」
半骸骨男は今殺した男に液体をかけながら聞く
「さぁどうだと思う?」
男はやけに大きな犬歯を見せつけるように笑う
「依頼じゃないお前らは殺しても金が入らないんだ。とっととお家に帰りな」
半骸骨男は返り血に染まった白い骨を拭きながら応える
「馬鹿言うんじゃねぇ!」
男はそう言うと半骸骨男をどつく
「お前のせいで俺たちの仲間が何人死んだと思ってる!」
男の眼球はゆがんでいた
「……少なくとも今一人増えたな」
半骸骨男はそう言うと共に男の体が吹き飛び、血があたりに降り注いだ
*
「—――今から30年前ヴァンパイアとか言うふざけた野郎が魔界からやってきやがった」
上品な光沢を放つ高級感あふれる皮で出来た椅子に座る男がそう口を開く
「それから約30年、魔界から来たというヴァンパイアは増加傾向にある。しかし魔界から来るのはヴァンパイアだけだった。他の魔物が来たという報告は耳にしたことが無い」
「だけど、俺が来ちまった」
腹に傷がある男が口を開く
「大体お前は何者なんだ。ヴァンパイアを殺す事が仕事だとか何とか言っているが」
皮で出来た高級そうな椅子に座る男は指をトントンと机に打ち付けながら問いかける
「何度も言わせないでくださいよ。俺は死神ですよ死神」
男は半笑いで応える
「足の生えた死神なんて見たこと無いな」
「足なんて生えてないじゃないか。俺のこの体はあくまで借り物、本体は魔界の俺の家で紅茶でも飲んでますよ」
男はそう言うと跡になった傷跡を見せる
「……もうこの仕事を始めて4ヶ月が経ちました。そろそろ信頼しても良いんじゃないですか?」
男はそう言うと机に積まれた11の頭部に視線を移す
「今回俺は4人殺せと言われた。そして結果は11人だ」
「だがそのうちの3人は人間だ」
革製の椅子に座る男は間髪入れずにそう言う
「チンピラがこの世界から3人消えたんだですよ?多めに見てくれないんすか?ケチ臭いなぁ」
腹に傷がある男はそう言うとジッとにらむ
「……報酬の追加は無い。むしろ一般人を殺して処分が無いことに感謝するんだな」
男は視線を逸らすとそう言った
「へいへいそうですかい。じゃぁ俺はここらでドロンしますかね」
腹に傷がある男はそう言うと立ち上がりドアノブに手をかける
「あ、言い忘れてましたが魔界からは俺以外も来てるんで。まぁせいぜい気を付けてくだせぇ、特に……いや、全員ですね」
そう言うとそそくさと部屋を後にしてしまった
*
「全く、あの新人は立つ鳥跡を濁さずってのを知らねぇのかよ」
警官の制服を着た男の一人がぼやく
「仕事はするんだがなぁ」
もう一人の男が肉だけになっても動き続ける死体を袋に詰めながら答える
「コレで11人全員入れたか」
男はそう言うと死体を乗せたパトカーに乗り込む
「帰り温泉よりません?」
もう一人の男がそう言いながら助手席に乗り込む
「馬鹿言え仕事中だぞ」
男はそう言うとアクセルを踏み込む
「……冗談ですよ」
その様子を道の端で女が一人ジッと見つめていた
―――バキバコバキッ!
突然パトカーが軋みだし、何かに捻られたかのようににベコベコに潰れた
エンジンの爆発とバチバチと燃えるパトカーへ女がゆっくりと近づく
「あ……警官も殺しちゃった」
女はそう言うとパトカーに積まれた死体の袋を引きずり出す
「ふふふ、コレでもう1匹と契約できる」
女はそう言うと深夜の裏路地へ消えて行った
ダンピール アオバ ツボミ @zabuton_in_huton
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