第19話「かわいらしい声」

「――さて、うまく話ができればいいけど……」


 放課後、俺は村雲さんのお家まで足を運んでいた。

 もちろん、昼休みのうちに電話はしており、訪問を許してもらっている。


 一応、去年同じクラスだった子がいたほうが、会ったこともない担任だけと会うよりも気が楽かな、と思って上条さんを誘ってみたけれど、普通に断られてしまった。

 まぁ、あの子の性格を考えるなら難しいとは思っていたけど。


『――はい』

「こんにちは、瑠美さんのクラスを担当させて頂いています、白崎です」


 俺はインターフォンを鳴らし、中から応答があると、自己紹介をした。


『あっ、すぐ出ますね……!』


 すぐに、村雲さんのお母さんが家から出てきてくれる。


「こんにちは、先生。わざわざご足労頂き、申し訳ございません」


 村雲さんのお母さんは、優しそうでおとなしそうな印象を抱く感じの人だった。

 俺が村雲さんの件を探っている際に、教頭先生が『あそこの親御さんはうるさい人じゃないから、放っておいて大丈夫ですよ』みたいなことを言っていたが、確かに学校に何か文句を言ってくるような人には見えない。


 だから、放っておかれたというのもあるのかもしれないな……。


 まぁ……不登校になっているのに、経験豊富な教頭先生がいじめ問題に関して頭を過らないとは思えないしなぁ。


「瑠美さんはいらっしゃいますか?」

「はい……あの子は、家から出ませんので……」


 お母さんは娘のことが心配なのだろう。 

 やつれている、というほどではないが、精神的に辛そうには見える。

 早く問題を解決してあげられるといいんだけど……。


「お邪魔してもかまいませんか?」

「もちろんです、どうぞ」


 村雲さんのお母さんは快く迎え入れてくれる。

 やはり、家庭的問題があるようには見えないな。


「ただ、あの子……元々人と話すのが苦手でして……その上今は、幼馴染の彩花ちゃんが来てくれても、返事をしないんです……。ですから……」

「えぇ、そういうこともあると思います。とりあえず、一旦話しかけてみてどうなるかって感じですよね」


 いじめ問題で引きこもっているのだとしたら、他人と接するのが難しくなるのも仕方がない。

 ましてや信頼して頼った去年の担任に見放されたのだ。

 もう誰を信じていいのかもわからない状態なのかもしれない。


「――はじめまして、村雲さん。今年から君がいるE組を担当させてもらうことになった、担任の白崎だよ」


 村雲さんの部屋の前まで案内された俺が、そう挨拶をすると――。


『先生……?』


 中から、幼めなかわいらしい声が聞こえてきた。

 俺は思わず、村雲さんのお母さんと目を見合わせる。


 反応があった……!


 そう喜んだのもつかの間だった。


『なにも、話すことはないです……。帰ってください……』


 村雲さんは、俺と話すことを拒否したのだった。

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生徒の保護者が元カノだった ネコクロ @Nekokuro2424

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