シングルマザー、育児疲れから逃れるために元カレと再婚し、梨園の妻になりました
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第1話
朝の光が、レースのカーテン越しに差し込む。
テーブルの上には、昨日の夜に読みかけた台本と、シワになった給食袋。
トーストをくわえたまま、スマートフォンを肩と頬で挟み、慌ただしく靴下を探していた。
「え?今日も5時入りですか?? ……は、はい、大丈夫です! 行けます、行けます!」
電話を切った瞬間、小さくため息をついた。
「ゆーまー! ランドセルどこー! 昨日出したって言ってたでしょ!」
寝室の奥から小さな声が返る。
「ママのソファの下ー!」
「……なんでよ!」
ソファの下から引っ張り出したランドセルには、クッキーのかけら。
私は、苦笑して、息子の寝ぐせを撫でつけた。
「もう、昨日また食べながら宿題したでしょ?」
「だって、おなかすいたんだもん」
そう言って笑う顔が、あの人によく似ていた。
会社員である元旦那と別れて、もう少しで3年。
彼との結婚で芸能界を辞めれる。
私も平凡な女性としての幸せを手に入れることができる。
そう思っていたのに…
シングルマザーと女優業の両立は、思っているよりも大変だ。
朝起きて、車で息子を送り、撮影現場へ向かう。
メイクの時間にセリフを覚え、休憩中に学校から届いたプリントを確認する。
熱を出した日には、撮影を抜け出して病院に走り、帰り道でマネージャーさんに頭を下げた。
「すみません、次は絶対に迷惑かけません」
そう言いながら、心のどこかで分かっていた。
——この生活、誰かの理解を得られるほど甘くはない。
「いってきます!」
1人息子の悠真が玄関から手を振る。
私は、精一杯の笑顔を作って、コーヒーを飲み干した。
カップの底に沈んだ苦味が、喉に少し刺さる。
スマホが震える。マネージャーの名前。
「ごめん、打ち合わせ入った。今すぐ来れる?」
一瞬だけ、息子の背中を見つめる。
ランドセルが小さく揺れながら、角を曲がって消えた。
「……い、今から行きます」
ヒールを履き直し、鏡の前で笑顔をつくる。
女優の顔を。
母親じゃない、誰かの夢を映す顔を。
「よし、行くぞ。」
私は、頬を叩いた。
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