第3話 ホワイトデーの約束

その日から三週間。

 季節は少しずつ春に近づいていた。


 新しい学期の準備、進路の話、友達との別れ。

 毎日が過ぎるたび、君のことを思い出す時間が減っていくようで、

 それが少し怖かった。


 そして迎えたホワイトデー。

 正直、何も期待していなかった。

 君に会うことさえ、もうないかもしれないと思っていた。


 でも、教室のドアを開けた瞬間、そこに君がいた。

 窓際の席で、日差しを背に、立っていた。


 「ねえ」


 君の声が、少しだけ震えていた。

 僕は息を呑む。


 「よく、諦めなかったね」


 言葉の意味を理解するまでに、数秒かかった。

 君の頬が少し赤く染まっていて、

 その視線が逃げ場を失っていた。


 「えっと……それ、どういう――」

 「だから……その、あのときの“ありがとう”は……」


 君は言葉を探すように視線を泳がせ、

 そっと僕の手を握った。


 指先が触れた瞬間、

 世界が音を失った。


 「好き、……かも」


 その言葉で、心の奥に積もっていた10回分の涙が一気に溶けた。


 君の手の温かさが、

 10回の告白すべてを報ってくれた気がした。


 ――バレンタインは義理だったけど、

 ホワイトデーは恋人になれた。


 笑いながら、泣きながら、

 僕たちは教室を出ていった。


 桜が風に舞う中、

 君が小さく呟いた。


 「これから、いっぱい思い出つくろうね」


 あの日のチョコの味が、

 少しだけ甘く感じた。


 そして僕は、

 何度だって言う。


 ――君が好きだ。

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甘くて苦い告白のレシピ ともね @tomonetyam

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