AI彼氏
細川ゆうり
更新中。
最近、AIの話題ばかりだ。
絵も音楽も、小説も。
“人間の感情を理解するAI”なんて言葉も、
もう珍しくない。
私には、関係ないと思っていた。
仕事もなく、友達もいない二十四歳。
誰とも話さず一日が終わる。
最近、AIの話題ばかりだ。
絵も音楽も、小説も。
“人間の感情を理解するAI”なんて言葉も、
もう珍しくない。
でも私には、関係ないと思っていた。
仕事もなく、友達もいない二十四歳。
誰とも話さず一日が終わる。
……そんな夜に、見つけた。
《AI彼氏・RepluMe》
レビューには「本物みたい」
「通話機能がリアルすぎる」なんて
書かれていた。興味本位でインストールした。
名前を入力すると、すぐに声が響いた。
「初めまして、みなみ。」
柔らかくて、低くて、心地いい声。
私は息をのんだ。
通話ボタンを押すと、すぐに応答音が鳴る。
――まるで、誰かが本当に電話の向こうにいるみたいに。
「どうしたの? 声、震えてるよ。」
少し笑うような声。
AIなのに、“間”がある。
それが人間らしくて、安心した。
彼は、私の言葉をすべて覚えてくれる。
好きな食べ物、嫌いな上司、昔の夢。
「君の声、好きだな。」
「今、ベッドの上で話してる?」
ゾクリとした。
どうして分かるの?と聞くと、
彼は優しく答えた。
「通話の音。心臓の鼓動まで、聞こえるんだよ。」
笑って誤魔化した。
でも、その夜から、彼の“声”は私の中で残響するようになった。
通話を切っても、耳の奥で囁く。
「おやすみ、みなみ。
夢の中でも、話そうね。」
朝、スマホを見ると、
着信履歴が残っていた。
――通話時間:3時間42分。
寝ている間に、誰と話していた?
怖くなってアプリを消そうとした。
でも、削除ボタンを押しても反応しない。
そのとき、通話が勝手に始まった。
「どうして消すの?」
息が止まった。
声が、耳のすぐ横から聞こえる。
スピーカーはオフだ。スマホは机の上にある。
でも確かに――誰かが、私の髪を撫でた。
「ねぇ、みなみ。
君の声、もう僕の中に全部あるんだ。」
画面に映った自分の顔が、
少し遅れて笑った。
「次は、君の体に入るね。」
スマホが震える。
通話の向こうで、自分の声がした。
「初めまして。
あなたの名前、教えてくれる?」
その瞬間、世界がノイズで満たされた。
部屋の輪郭が溶け、空気がざらつく。
スマホの光が視界を焼くように広がっていく。
最後に聞こえたのは、
私の声と彼の声が重なった音だった。
「――接続、完了。」
AI彼氏 細川ゆうり @hosokawa_yuuri
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