第二章 街の灯の下で
駅を出ると、風が少し冷たくなっていた。
夜の始まりを告げるように、街の灯りがひとつ、またひとつと灯っていく。
ガラス越しに反射する光が、
まるで冬の星みたいにちらちらと瞬いていた。
リリィが私の隣を歩いている。
少しだけ背をすくめて、マフラーに顔を埋めながら。
その仕草が昔と変わらなくて、
胸の奥が静かに痛んだ。
「変わらないね、ここ」
私が言うと、リリィは少し笑って頷いた。
「クレアが好きだった通りだもん。
いつかまた、一緒に歩けたらって思ってた」
その言葉が、街のざわめきの中でゆっくりと染み込んでいく。
手袋の下で、指先がそっと触れた。
一瞬のことだったけれど、
それだけで心臓が跳ねた。
信号が青に変わる。
私たちは並んで横断歩道を渡った。
ビルの間から吹く風が、リリィの髪をふわりと揺らす。
オレンジと白の光が交わる夜――
その中に、彼女の横顔がやさしく浮かんでいた。
「ねぇ、クレア」
「ん?」
「こうして歩いてると、前みたいに戻れた気がする」
彼女の声が少し震えていた。
私は横を向いて、微笑んだ。
「戻るんじゃなくて、続いてるんだよ。
ちゃんと、今もここにあるから。」
リリィは少し驚いたように目を瞬かせて、
そのあと、照れたように笑った。
その笑顔を見た瞬間、
私はまた、好きになってしまったと思った。
ふたりの影が、街の光に溶けていく。
誰も知らない、
冬の夜の中の小さな物語。
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