第11話 二人の絆

 黒狼ゾマを倒して、日が経過した。


 ぺーぺー冒険者、しかも予備戦力の僕が大物を倒したなんて、当初は誰にも信じてもらえなかった。

 だが改めて派遣された調査隊が現場で【魔鋼石】を発見して話が変わる。


 魔鋼石。

 魔物の体内にある石とかで、どんな魔物にも大なり小なりあるのだとか。

 弱い魔物は普通の石と変わらない純度らしいが、大物になるとまた別で、ものによっては町一つ補えるほどの動力源になるのだとか。


 胆石みたいなものかと言ったら、サーリアにぷんすかされたのは秘密だ。

 まあ黒狼ゾマの魔鋼石が森で発見されたのだ。


 純度が高く大物だと判明。

 ただ倒したらすぐに加工しなければいけなかったようで、放置されていたせいで魔力が漏れてしまったらしい。


 それでも最低2級以上の石だとわかり、僕の立場は一転した。


 予備戦力から正式な冒険者に変わり、今後スキルはく奪もないのだとか。等級は【初級】からスタートらしいが。


 快く思わない人たちもいるのかなと思っていたが。


「よろしくなー、コウガ」「おいでませ冒険生活!」「どんどん活躍していってくれよな!」


 存外に、好反応だった。

 強い冒険者が増えるのはむしろ歓迎なのだとか。現金、というより現実的な考えが染みついているのだと思う。


 というか、むしろ同情の視線が増えていた。

 あのガラの悪そうな冒険者ですら僕を慰めたぐらいだ。


「がんばれ……本当にがんばれよ……!」


 ヒデリさんに目をつけられて大変だな、の意味らしい。


 そのヒデリさんなのだが、大きな宿屋の一室を借りて、『大物討伐大変だったね&お疲れ様&輝かしい冒険の日々にようこそ』会をひらいてくれた。


「任務お疲れー! 素晴らしき激闘だったようだな!」


 彼女は僕たちを拍手で迎えいれてくれた。


 宿の一室の円テーブルには豪華な料理が並べられて、『コウガ&サーリアちゃんコンビ! 世界に今飛翔する!』と歓迎幕も垂れていた。


 やっぱりバレていた……。

 一瞬帰ろうかなとも思いつつも、サーリアがご飯を食べたそうにしていたので召しあがることにした。


 絶品料理に舌鼓を打ちつつ、今回の件を改めて報告する。

 一級冒険者の彼女からの視点が欲しかった。


「ふむ……停戦状態が長いことつづいたからね。黒狼のような痺れをきらした魔物はいると思う。そいつは人間をつまみ食いするだけじゃなく、あわよくば火種になればいいと考えていたんじゃないかな」


 ヒデリさんは焼きガニを口でばりんと砕いて、身をすすった。

 僕は卵スープを呑んでからたずねる。


「火種って戦争ですよね? ……なりえるんですか?」

「停滞に飽き飽きした連中はなにも魔物だけじゃないってことさ」

「それ……ヒデリさんの立場で言っていいんです?」

「言うさ! 人間にも血気盛んな馬鹿どもは多いぞー! ははは!」


 笑いどころかなあ。

 さすがに第二次人魔戦争は勘弁って態度だが、暴力賛美の闘争神教の信者っぽいんだよな。


 と、サーリアが不安そうに、けれどチキンの味には大満足そうに言った。


「はぐはぐっ。オイラ……町を追い出されない? 処罰されない……?」

「ないない! サーリアちゃんは力を示した! それに城塞都市は三柱神教の影響が強いからねー。【成長と進化】は彼らの教義となすところ。むしろ崇められるんじゃないか……あーでも、それは難しいか」


 ヒデリさんがもの言いたげに僕を見つめる。


 そのドスケベ衣装はお前の趣味かと言いたげだが、ちがうよ。

 ちがうんだけど、自信はない……。なんでだろうね……。


 ちなみに三柱神教の基本教義は【成長と進化】だ。

 三柱である【創造・調和・闘争】の神がそれぞれの力で世界を導くわけで、それぞれの神に信者がついていたりする。


 そして闘争神の教義が、こう、暴寄りなのだ。

 闘争なくては成長と進化はない的な。


 闘争神教の信者疑惑のヒデリさんを警戒している理由もわかってくれよう。


「よかったぁ……これも全部アニキのおかげだね!」


 サーリアはニコニコ笑っている。


「ん? 僕のおかげ?」

「オイラが進化できたのもぜんぶアニキのスキルのおかげだよね!」

「それはちがうよ、サーリア」

「え?」


 僕はスプーンを置いて、相棒を見つめる。


「進化したとき、僕のテイマースキルが働いた気配はなかった。僕がなにかしたってわけじゃないよ」

「でも」

「しいていうのなら、僕たちの絆の力かな」

「絆の力……」


 サーリアが嬉しそうに唇をほころばせた。

 気持ちが通じ合って僕も嬉しい。


「けど、身体能力を高める効果もあるなんて……サーリアの力が僕に流れているのかな」

「アニキ???」


 サーリアは予想外みたいな顔をして、ヒデリさんは『そうきちゃう?』みたいな顔をしている。

 間違ってはいないと思うが。


「僕の身体能力があがったのスキルのおかげですよね?」

「ふむ? なにかしらのユニーク効果がないとは言い切れないが……」


 ヒデリさんが困った顔でいると、サーリアがおずおずと切り出す。


「あ、あのね、コウガのアニキは元々強い人だと思うよ」

「それなら選定の儀式に選ばれないんじゃ?」

「弱い人ほど強いスキルが目覚めるなら、強い人ほど弱いスキルに目覚めさせて調和をとるんじゃないかな? 調和の神様ってそんな神様なんだよね?」


 そう、なのだろうか。

 しかしサーリアを守りたいという気持ちが勝利のキッカケになったと思う。相棒への純粋な想いが、絆なにがして的なおかげでスキルを活性化させた。そう考えるほうが筋道が立っているような。


「サーリア、やっぱりスキルのおかげだよ」

「そうかなぁ」

「絆の力さ」

「絆の力……」


 サーリアが嬉しそうに唇をほころばせた。


 絆の力はやはり素晴らしい。サーリアを進化させるだけでなく、僕に暴力をふるえる力を与えてくれる。絆っていいな。


 僕が絆の力に酔いしれていると、ヒデリさんはどっちでもよさそうに言う。


「なんにせよだ。お前たちの愉快で、楽しく、暴力あふれる素敵な冒険ははじまったばかりだ。おめでとう!」


 めでたいことなのだろうか。暴力あふれるのは当然なのか。

 ニタリと不敵に笑うヒデリさんに、あいまいな笑みを返しておく。基本、距離は開けていたほうがいい気がした。


 そんなわけで僕とサーリアは、今晩は宿屋に泊まることにした。


 いっぱい食べて、いっぱい寝て、英気を養えということらしい。ヒデリさんには目をつけられたようだが、その分世話も焼いてくれるようでトントンなのかなーと思った。


 備え付けのお風呂に入る。


 湯船につかりながら最新魔導技術の恩恵にひたり、しっかりと身体を休ませる。サーリアとこんないい宿に泊まるわけだが、もう照れなんてない。


 あのとき、僕たちはたしかに心から繋がった。

 本当の相棒になったんだ。

 もう見かけで惑わされることなんてない。ありのままのサーリアを見つめることができる。


 股間の相棒が反応することは二度と決してないのだ。

 純粋な絆を信じることができていた。


「アニキーーーー! 一緒にはいろおおおおおおお!」

「ああああああああああああああああああああああ⁉」


 浴槽のドアをあけて、すっぽんぽんなサーリアが笑顔でやってくる。

 湯気で大事なところは見えないが、さらに肌面積が多くなったことで、股間の相棒が一気に、かつてないほどアイボーンッとなった。


 ドスケベ服全部脱げれんのかい⁉

 股間の相棒ううううううううう⁉


「サーリアああああ、ジャーンプ!」

「ま、待て⁉ 湯船にはゆっくり――」


 ざぱーんと大きな音と共に、無邪気な笑顔で、しかしかつてないほどのエロティックなサーリアが目の前にいる。

 湯をあびることで肌がてかてかと輝いていて、さらに扇情的になった。

 僕が慌てて湯船から出そうにとするが、裸のまま抱きつかれる。


「ダメだよ、アニキー。肩までつからなきゃでしょー?」

「そうだけどもおおおおおお!」

「んー? 固いところがあるよー? ほぐしてあげるー」

「おほおおおおおおおおお!」


 情緒がああああああ、理性が死ぬうううううううう!

 う、裏切り、僕は絶対に裏切ら……おほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「アニキ、暴れないでよー」


 サーリアの楽しそうな声。

 そこに一切の不安はなさそうで僕は安堵しかけるが、理性は粉みじんにしてくるむっちむちやわな感触に一切の安心ができなくなる。


「アニキずーっとずっと一緒にいようね!」


 邪気なき笑顔で見つめられたら、まっすぐに答えるしかない。

 僕とサーリアのあいだには邪まなものは一切なく、いつだってキラキラに輝いているのだ。


「アニキーーーーーーーーー‼」

「おおおおおおおおおおおん‼」


 ~~~~~~~~~

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

 コウガとサーリアの物語は、キリのいい関係性になったこのタイミングで区切りとさせていただこうと思います。


 というのも、キャラや設定を真面目寄りに作ったせいか、ボケをいれる隙間がどんどん減ってしまい、「どう広げていくのが一番楽しくなるのか」を話のテンポごと掴めなくなってしまいました。


 続きを考えていなかったわけではありません。

 むしろ色々とイメージはあったのですが、このままだと物語が平坦につづきそうだと感じ、それならここで閉じるのが読者さまにも自分にも良い判断だと思い至りました。


 読んで楽しんでくださった皆さまには感謝しています。

 続きを期待してくださっていた方には申し訳ありません。


 自分はこれからも「アイディアを思いついたらwebに投稿して、読者さんと一緒に育てていく」、そんなスタイルで作っていきたいと思っています。


 もっと楽しんでもらえる新作を執筆してまいりますので、

 どうか今後ともよろしくお願いいたします!

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